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第7話:応援と依存
放課後の図書室。
誰もいない窓際の席に、ひとりの少女が座っていた。
古澤ユイ。
1年生。肩にかかるほどの黒髪はストレートで、制服はピシッと整っている。けれどその表情は、どこか曇っていた。
彼女の指先には、光るカードが3枚並んでいる
《応援》
《勇気を渡す》
《好き、の代弁》
──全部、“誰かの背中を押す”ためのカード。
「これで、また今日も彼に“近づける”かな……」
つぶやく声は弱く、どこか壊れそうだった。
ユイが想いを寄せているのは、同じクラスの男子。
彼にはすでに“恋レア関係”の相手がいた。だが、ユイは諦めきれなかった。
「直接想いは伝えられない。でも……応援することで、彼のそばにいられるなら」
ユイは、恋レアを“片想い支援ツール”として使い続けていた。
放課後、彼のSNS投稿にリアルタイムで《応援》カードを送る。
朝、すれ違っただけで《一歩を踏み出す勇気》を発動する。
目が合えば《代弁カード》で「今日もかっこよかった」と、カード任せで気持ちを伝える。
──でも、彼は振り向かない。
ある日、ユイが彼に《応援》を使った直後、彼は他の女子と《恋人認証演出》を発動させた。
画面越しに、それを目にしたユイの恋レアアプリが、通知を返してきた。
「この相手には、これ以上カードが届きにくくなります」
それは、拒絶の“システム通知”だった。
机に突っ伏すユイを、誰も咎める者はいなかった。
だがその姿は、図書室の棚の向こうから見ていた。
天野ミオは、偶然ユイの様子を目にしていた。
“応援しているうちに、心がボロボロになる”
──それは、自分にも起こりうることだった。
恋レアは優しい。
けれど、優しすぎて、心を甘やかしてしまう。
「……カードで、応援し続けるって、どこかで自分を削ってるんだね……」
ミオの言葉に、隣から声が返る。
「“好き”って気持ちは、応援されるためにあるわけじゃない。伝えるためにある」
大山トキヤが、静かにそう言った。
白シャツにゆるくかけた黒のカーディガン。髪は風に少し乱れていた。
「自分の言葉で伝えるって、怖いよ。でも、それをカードに任せてばっかだと、きっといつか“心ごと”置き去りにされる」
その言葉が、ミオの中の何かを少しずつ揺らしていく。