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第一章:記憶の欠片
薄曇りの空が重く垂れこめ、遠くのビル群は朽ち果てている。街は死の静寂に包まれ、風が吹き抜ける度、廃墟の隙間から埃と枯葉が舞い上がった。
そんな街の中を黒髪の少年が一人で歩いていた。足音は廃れたコンクリートに吸い込まれ彼の歩みはどこか迷いがちだった。
「ここは…どこなんだ?」
小さく呟いたその言葉はまるで自分に向けた問いかけのようで自分の声すら遠く感じられた。
この少年は、自分の名前、年齢、何故ここにいるのか等自分の情報を何一つとして覚えていなかった。
目の前の景色も、体の感覚も、過去の記憶も全てが白紙のように抜け落ちている。
手のひらをじっと見つめる。冷たい風が肌をなぞり、手の震えに気づいた。
少年は自分の存在を確かめるかのように、指を1本ずつ動かした。
「何も覚えていない…」
声に出す度に胸の奥に重い痛みが走る。何かが欠けている、そんな感覚だけがはっきりしていた。
足元に散らばる瓦礫。朽ちた家具の残骸。壁に微かに残った血痕。全てがこの世界の「死」を物語っている。
「ここで一体何があったんだ?」
意識の奥でまだ見ぬ何かがざわめいている。まるで過去の断片が遠くで囁くように。
「っ…!」
今までに感じたことないような頭痛がする。そこで少年の意識は途切れた。
______
「………」
誰かが遠くでなにか喋っているような気がする。一体誰だろうか。周りを見渡しても何も無い。生も死もないような真っ暗な風景が続いている。
「…だ……ぶ…?」
だ……ぶ…?何を伝えたいんだろうこの人は。俺はここにいるって言うのに喋ってる人は一向に見つけられない。
「君!大丈夫?」
ハッとして辺りを見渡すと先程自分が歩いていた道、地面にちらばった瓦礫が視界に入る。
上を見上げると何ともチャラそうな茶髪の男が立っていた。髪の毛の間からエメラルドグリーンの瞳がこちらを覗いていた。
「お、大丈夫っぽいね!」
少年が起き上がると目の前の男は見てられないほど眩しい笑顔を向ける。
「俺の名前はカナメ!君の名前は?」
俺の名前…?
「分からない。何も覚えていないんだ。」
目の前の男は少し悩んだ後再度笑顔になり
「うーん。じゃあナユ!なんかそんな感じするし!名前ないと俺が呼ぶ時悩むから。」
と淡々と述べる。ナユと名付けられた少年は状況を理解していないように首を傾げる。
「ナユ…」
「さぁナユ!初めましてだからもっとお話したいところだったけどそれは後でにしよう!」
ナユの手を取り立たせるとカナメはナユの後ろに向かって1歩、また1歩と歩き出す。
どういうことか分からずカナメの方を見ると、すぐそこに巨大な怪物がいた。
「えっ…なにこれ…化け物…」
全てを理解したカナメは肩にかけてある鎖を持ちジャラジャラと音を立て目の前の巨大な怪物の所へ近づいていく。
「こいつを倒した後で俺のオヤジのところに一緒に行こう!あの人はなんでも知ってるからね!」
そう言うと同時に怪物に向かって飛びかかって行った。
とても重そうな鎖を軽々と操り怪物の動きを静止させる。
「俺にも出来ることは…」
そう考えているとナユの影が不自然に怪物の方へ伸びて行った。
怪物の後ろまで伸びたかと思うと地面から影の剣のような物が出てきてその怪物の心臓目掛けてグサッと音を立て刺さる。
怪物が灰になって消えたかと思うとカナメがこちらをキラキラしたような目で見つめていた。
「今の何!?ヒューンって!ナユってそんな力があったんだ!」
ナユの影について興味があるようでかなりの数質問をしてきた。
「いや、俺にも分からない。こんなこと出来るなんて…」
ナユ自信驚いているのを見てカナメは少し下がった。
「まぁいいや!オヤジの所に行こう!オヤジなら何かわかるかもしれないからね!」
そう言うとナユの手を引っ張り、腐りかけた木が生い茂っている森の奥へと歩みを進めた。
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