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バスルームから戻った侑がキッチンへ向かい、数分後に温かい飲み物を持ってきてくれた。
「コーヒーくらいしかないんだが。ミルクも砂糖も入ってるけどいいよな?」
二つのマグカップのうちの一つを、瑠衣に手渡した。
「すみません……ありがとうございます。頂きます」
カップを両手で包み込みながら、一口飲む。
優しい甘さの温かい液体が喉を通って身体の中に染み渡り、泣きたくなりそうなほどの安堵感が瑠衣に襲い掛かってきた。
横で侑も無言のまま、カップを口に運んでいる。
やけに長く感じる時間に、堪らず瑠衣は口を開いた。
「あのぉ……先生」
「何だ?」
「私……着の身着のままの一文なしなんですけど……着替えとか……どうすればいいですかね?」
瑠衣の質問に、侑が彼女を見やった。
グレージュのミモレ丈のドレスを纏っているだけの彼女にハッとすると、『……すっかり忘れてたな』と独りごち、徐に腕時計を見る。
「…………お前、歩けるか?」
彼の質問にきょとんとすると、侑は長い前髪を大雑把に掻き上げながら言葉を続けた。
「…………うちから歩いて十五分くらいの所に、深夜まで営業しているディスカウントストアがある。ひとまず間に合わせに、お前の着替えなどを買いに行く。俺は明日はオフだから、お前の物をまとめて買い出しに行こう。金の事は心配するな」
「…………はい。ありがとう……ございます……」
一度キッチンへ向かった侑から濡れたおしぼりを手渡され、顔や肌に付着した汚れを拭き取り、彼も同様に拭う。
「なら、出かけるぞ」
瑠衣に侑のコートを手渡した後、彼もスーツの上着を羽織り、財布とスマホ、自宅の鍵を掴んだ。