テラーノベル
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#現代ファンタジー
むぎ 🖤🪽
73
#死ネタ、流血表現、暴力表現
穏霞 乃矢
2,886
スメラはダクトを伝い業者搬入口に転がり出た。だが、その瞬間、背後から警備用ドローンの赤い光が伸びる。機体のセンサーが明滅しスメラを補足した。
「対象検知! 捕獲モード、起動」
「えっ!」
耳障りな電子音とともに、ドローンから稲妻のような魔導電撃が放たれた。スメラは反射的に横へ飛び退き、足で地面を蹴った。搬入門の手前、曲がり角の影から二機目が現れ、スメラを挟むように進路を塞いだ。
(えっ……一機じゃない!)
「逃げ場を塞がれた……?!」
ドローンが放った稲妻が交差し、網のようにスメラを包囲しようとした。その瞬間、スメラは咄嗟に身をかわす。稲妻は彼女の背後をかすめ、配電施設の扉を直撃した。
「ガチン!」
金属の錠が焼き切れる鋭い音が、耳を突く。
(今の音……扉が!)
振り返ったスメラの視線に、黒焦げの錠前から煙を上げる鉄扉が映った。
「行ける……!」
再びドローンは態勢を整え、稲妻の網を張り巡らし、スメラに照準を合わせて迫ってきた。熱が肌を焼こうとする中、スメラは息を呑み、扉へと駆け出した。扉に肩から激しく体当たりする。軋む音と共に、扉はわずかに開いた。だが、重い。
「くっ……開いてッ!」
全身の力を込めて押し広げる。背後でドローンの冷たい合成音が響く。
「対象、逃走行動確認――」
「くっ……開いてッ!」
全身の力を込め、扉を押し広げる。背後で、ドローンの迫りくる羽音が大きくなっていく。
『対象、逃走行動確認――』
次の瞬間、稲妻が間一髪で背中をかすめた。熱い閃光が視界を白く染める。だが、スメラは扉を押し続けた。
ギギギ……。
扉が大きく軋み、わずかに開いた隙間から、暗い地下点検口の闇が姿を現した。スメラは身を滑り込ませるように、中へ転がり込んだ。直後、扉が背後で閉まる音と同時に、稲妻が鉄扉を直撃した。轟音が響き、周囲の埃が一気に舞い上がった。
(助かった……。 でも、ここから先が本当の勝負だわ……!)
地下電力設備点検通路内で、スメラは息を切らせながら、突き当たりで足を止めた。錆びた電力制御盤と足元に広がる薄く濡れた冷却水の水たまり。むき出しの配線が壁際で火花を散らしている。
(ここなら……やれるわ!)
スメラはすぐ近くの備品庫に転がっていた絶縁マットを引き寄せ、それと同時に、備品庫にあったシューズを身に付け、壁の影に敷いてその上に立つ。素早く軍用ハサミを抜き、ブレーカーを一旦落とし、電線を慎重に切り分ける。そのとき、背後の暗闇から、鋭い電子音とともにドローンが浮上してきた。
「識別完了。対象、排除開始」
稲妻の光が、機体の先端から走った。
スメラは叫んだ。
「来るなら……来なさい!」
配線を水面に投げ込みブレーカーを叩き上げた。瞬間、床一面が青白く閃光を帯びて通路全体が雷の檻に変わった。ドローンが放った稲妻は、その檻に絡め取られ、逆流した電撃が機体を貫いた。
「システム異常……。再起動不能……!」
ボンッ!!
火花と爆音。金属片が雨のように散り、焦げた匂いが通路を満たした。
スメラは顔をしかめながら、焦げ臭い空気の中で絶縁マットから飛び降りた。痺れる足に力を込め、よろめきながら非常用昇降口の梯子へと走る。梯子を駆け上がった先には、古びた鉄製のハッチがあった。
レバーを引いた。
ギギ……。ギギ……。ギギ……。
錆びついたハッチを押し上げると、冷たい地上の空気が流れ込んできた。そこは、官邸の裏通りだった。遠くから、官邸の非常ベルがけたたましく鳴り響いていた。スメラは息を切らしながら、地上へと這い上がった。
(生き延びたわ!)
息を切らせ、夜の風に包まれながら、彼女は闇の中へと走り去った。
(あと三ブロック先……王立科学博物館前バス停の裏に、タクシーが待機しているはず……)
スメラは息を整えながら、身を低くして慎重に走る。途中、官邸周辺を周回している。再び警備ドローンのライトを避けるために、ごみ収集箱の影に身を伏せ、通りすぎた直後に再び走り出す。
(お願いだから、見つからないで……)
ようやく、バス停の目印である、黄色に光る魔法陣紋様灯が見えた。彼女はそこに停車していたハーザードランプが点滅している無人タクシーに向かい、手首の秘書官IDを認証機にかざす。セキュリティが解除され、ドアが開く。後部座席に身を沈め、自動タクシーは静かに滑るように浮遊走行し、車体が加速を始めた。魔導エンジン特有の低周波ノイズが、微かに車体を震わせ、シートがまるでゆりかごのように振動し、スメラの身体は緊張が緩んで「ほッ」とため息をついた。
「目的地、登録住所:第三区・青磁団地ですね」
タクシーの合成音声が問いかける。
スメラは短く「ええ」とだけ答えた。
「助かった……」
体を深く預けたまま、スメラは薄く目を閉じた。だが、耳にはリヴァンの声、瞼の裏には、コピーされたファイルの断片――。複製王族、王研ファイル――。そして、あと一歩で彼女を捕えるはずだったドローンの閃光が、まだ焼きついていた。心拍数はまだ高く、額の汗が鎖骨を伝って落ちた。
車窓の外、王都リュカの街並みがゆっくりと流れていく。舗道には光導灯が並び、歩道は魔法石の淡い光が花のように咲いていた。中枢官庁街を抜け、車体がゆるやかに旋回すると、煌びやかなネオンが広がった。
深夜でも人の絶えない首都リュカ街の繁華街。石畳の歩道にはテラス席の居酒屋が並び、軍属と思しき男女がグラスを掲げて騒ぎ、人型ロボットの給仕が静かに料理を運ぶ。通りの角では、複眼を持つトカゲ型の警備ロボット兵が、無言で行き交う人波を見張っている。
その背後には、リュカの象徴・時計塔。魔導灯のきらめきに照らされ、時を刻む針が薄明の空を切っていた。夜の空には、淡く揺らめくエルフ・バリアの虹色のオーラ―。まるで星霧のような光が、静かに都市全体を覆っていた。
(リヴァンが首謀者なんて……信じられない。けど、これが現実)
胸の奥で繰り返す言葉は重く、鈍い鉛のように沈んでいた。
「目的地に到着しました」
タクシーが減速し、住宅街の奥、青磁団地の一角に静かに停車する。スメラは深く息を吐き、周囲に視線を走らせた。
――追手の気配は、ない。
「追ってこないわよね……大丈夫」
小さく呟き、ドアを開ける。夜気が頬を撫で、かすかに冷たさを伝えてくる。タクシーの灯が遠ざかるのを背に、彼女は住宅街の闇へと歩みを進めた。
ちょうど、その頃。エントランスの結界が一瞬だけ閃光を放ち、官邸駐車場に黒曜石の車が滑り込んだ。
政府専用車〈エルグライド〉から、リヴァンとマラーが降車する。
「カーン、マラーの部屋に異常を検知した。警備員を連れて後に付いてこい」
「えぅ、配電所ではなく、マラー補佐官のお部屋ですか。し、承知しました……」
カーンの声がわずかに震えている。完璧な防御を誇った警備網に穴が空いた。それが彼の自尊心を静かに削っていた。一行は無言でエレベーターに乗り込む。
「カーン、監視は?」
リヴァンが問う。
「本日、定期保守のため監視システムは一時停止中でした。その間、複数名で巡回していましたが、異常は確認されておりません」
「その隙を狙われたか……」 リヴァンの目が細められる。マラーが口を挟んだ。
「Z-Retroは国家中枢に関わる極秘データです。漏洩すれば計画が崩壊します」
「分かっている。だから戻った。慎重に動け」
やがて、エレベーターが静かに停止し、廊下の封印魔方陣が、一瞬だけ青白く光り消えた。
「カーン、このフロアの非常口と階段口を封鎖。誰ひとり通すな」
「承知しました……」
マラーがIDカードを差し込む。魔方陣の封印が解除され、重い扉が左右に開いた。部屋の中央に浮かぶ操作卓のホログラムは、直前まで誰かに使われていた痕跡を残していた。
「DL完了済み……。ログだけが残っている。痕跡は完全には消せていないな」
マラーが悔しげに呟く。リヴァンの視線が、部屋の空気を斬るように冷たく光る。
「計画が……漏れたというのか。誰だ、こんな真似を」 リヴァンの目が赤黒く、わずかに光った。
「探せ! あらゆる痕跡から、すべてを洗い出せ」 怒号が静かに室内に響き渡った。
――官邸警備室
「警備ドローンが緊急発進。その後、旧通信所で通信が途絶。自動消火システムが作動しています」
カーンがホログラム映像を再生する。搬入口から走り去る人影に、ドローンが放電球を照射する、その一瞬、女の顔が、浮かび上がった。
「……女、です。動きからして、訓練された軍仕込みのようです」
「どこか、見覚えがあるな」
そのときだった。
「失礼いたします、首相閣下」
静まり返った警備室に、落ち着いた女性の声が響いた。
振り返ると、ゼム・グラナが数名の情報管理官を従え、端末を抱えて立っていた。
「ただいま全館の防犯ログ解析が完了しました」
ゼムはホログラムを展開する。
無数の経路が立体映像となって浮かび上がる。一本の赤い線だけが、異様な光を放っていた。
「こちらをご覧ください」
彼女が指を滑らせる。
「マラー補佐官室への侵入時刻、機密データへのアクセス、旧通信所への移動経路。
現時点の解析では、一連の行動は同一人物によるものと推定されます」
ぼやけていた人物の顔が、AI解析によって徐々に鮮明になっていく。
そして画面中央に、一つの名前が浮かび上がった。
《スメラ・エヴェリナ》
「顔認証照合率、九十九・九八七パーセント」
ゼムは淡々と言い切る。
「情報管理室としては、誤認の可能性は極めて低いと判断します」
「スメラ……。嘘だろ……。裏切るなんて……」 リヴァンは低くつぶやき下を向いた。
(なぜだ、スメラ……。お前だけは……信じていたのに)
(最初に声をかけてくれた、笑いかけてくれたのも、手を伸ばしてくれたのも、お前だった……。
なのに、なぜだ……)
(そして、孤児院で誰よりも早く、私の“夢”を肯定してくれた。……唯一の理解者だったはずだ)
カーンが声を震わせる。
「そういえば、……彼女が“自室に忘れ物がある”って、警備室に無断で入ってきたのです。そして、マスターキーの貸し出しを求められ、応じてしまいました。そのとき、警備システムの更新時間も詳しく尋ねてきました」
リヴァンは目を閉じ、深く息を吐いた。
「やはり……。スメラ、か」
マラーが一歩前へ出る。
「首相。私は、廃棄指令を受けたバイオハードボックスを搬送しようとした際、彼女と鉢合わせました。それ以来、失踪した政務官の件について、しつこく詮索されました」
「首相……いかに幼馴染といえども、看過はできません」
さらに、マラーは語気を強めて訴えた。
「皮肉な話ですが、“もっとも信じていた者”ほど、深く潜り込めるのです。策士の常套です」
リヴァンの眉間がわずかに動く。次の瞬間、彼の瞳が、赤黒い光を帯びた。
≪私の計画を邪魔する者は、すべて敵だ!≫
重く低い声が、リヴァンの脳を響かせ、リヴァンは頭を抱えた。
「明日、私から直接、問いただす。だが今後は、容赦は無用だ」
「マラー、ラマズドに伝えろ。本日の“照射計画”は中止だ。カーン、今回は始末書と口頭注意で済ませる」
リヴァンは去った。部屋には、ただ“断罪の意思”だけが残され、〈エルグライド〉のドアが遠くで閉まる音が、それを静かに証明していた。自信が崩れ、表情が硬く曇ったカーンは下を向いたまま、重い声で言った。
「申し訳ありません。……完全に私の監督不足です」
(スメラ、あなたを信じたのに。なぜ、俺に嘘付いた上に裏切る……)
マラーは冷ややかに頷いた。
「今回は始末書と口頭注意で済ませる。ただし、再発防止策としてSHELL分析を行う。わかるな?」
「はい。人・装置・環境・手順、それぞれの問題を洗い出すのですよね」
「その通りだ。ヒューマンエラーは起きる。だが組織が学ばなければ、意味はない」
「ありがとうございます。……マラー秘書官」
「休め。だが、次はないぞ」
カーンが部屋を出て行くのを見送りながら、マラーは低くつぶやいた。
「裏切りの代償が、どれほど重いか……その身で知れ、スメラ」
その言葉を聞いたゼムは、誰にも気づかれぬよう、わずかに口角を上げた。
(この件は……もう少し泳がせた方が面白そうですわ)
彼女は胸の内でそう呟き、静かにホログラム端末を閉じる。
情報は、時に剣より鋭い。それを誰よりも知る者の、冷たい微笑だった。夜の警備室には、重苦しい静寂だけが流れていた。
コメント
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わあ、第7話もめっちゃ面白かったです!スメラの脱出劇、手に汗握りました。特に配線使ってドローンを逆にやっつけるシーン、彼女の機転の良さが光ってますね。それでいて最後のリヴァンの「なぜだ…」って心情がすごく切なくて…幼馴染の裏切りって重いですよね。それと、ゼムのあの不気味な微笑み、なんか彼女も裏がありそうで気になります!次回が待ち遠しいです!