テラーノベル
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楽曲制作アプリ『スマートミュージック』の進捗状況は、変わらずトラブルに見舞われている。
美花から頂いたネクタイを、圭は毎日締めていた。
彼が同じネクタイばかりしているのを、同僚たちに陰で言われているようだが、そんな事はどうでもいい。
圭も、毎日残業が続き、帰宅が二十二時過ぎになる事はザラだった。
美花とも全然会えず、メッセージアプリでやり取りしているが、彼女の自宅でもある『家庭料理 ゆき』にも顔を出せずじまい。
あのバレンタインデー前日から、会えない状態が続いているが、圭が気になったのは、彼女が送るメッセージが、素っ気ない内容に変わってきた事。
(美花も忙しいんだろう……)
圭は、そんな事を悠長に考えていた。
三月の連休後の週末。
この日も、午前中から部内会議が行われていた。
「う〜ん…………唯一、気になるのが、トランペットの音なんだよな。単体で聴くと、どうも安っぽく感じてしまう。いっその事、収録し直そうかと考えているんだが……みんな、どうだろう?」
DTM事業部の部長、柏木爽が、会議室に集まっている社員を見渡すように提案すると、圭は思わず顔を怪訝にさせてしまった。
同期でもあり、上司でもある柏木のこだわりは、圭がDTM事業部に異動してから、初めて見た彼の一面。
こだわりが強すぎるゆえに、DTM事業部は社内で業績不振と言われ続けてきたのだろう、と、圭は異動したての頃、朧気に思っていた。
だが、柏木と一緒に仕事をしていくうちに、彼が開発中のアプリに並々ならぬ思いと意欲を注ぎ込んでいる事に、圭は感銘を受けている。
「部長。私から提案があります」
圭は手を挙げると、柏木に視線を向けた。
「葉山。何だ?」
「私の小中学校時代の同級生に、トランペット奏者になった人物がいるので、彼に頼んでみてはいかがでしょう?」
「なるほど。葉山に演奏家の同級生がいたなんて、初耳だな」
柏木に眼差しをかち合わされた圭が、目力を強くさせる。
「かつてJHK交響楽団にも所属し、国際コンクールでも華々しい成績を残した、響野侑を起用するのはどうでしょうか?」
侑の名前を挙げた瞬間、圭には柏木の瞳が、仄かに色を変化させたように感じる。
「…………響野侑氏の音色は、素晴らしいようだな。分かった。葉山からアポを取ってくれるか?」
「了解です。それと、もうひとつ」
圭は、美花の存在を指先で確かめるように、ネクタイのノットに触れながら立ち上がった。
恵
コメント
1件
お疲れ!第184話読了したわ。圭が美花からもらったネクタイ毎日締めてるの、すごくいいな…!でも会えなくてメッセージが素っ気なくなってるのはちょっと切ないね。柏木部長のこだわり強めな感じもリアルで、開発現場の空気感が伝わってきた。響野侑を紹介する提案、カッコよかったよ!続きどうなるか気になる🔥