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第6話▶︎ 好き が隠せてないから / side勇斗
正直、余裕があるふりはしていた。
年上だし、先に好きになったのも多分こっちだし。 だから、ちゃんと引くところは引いて、柔太郎のペースを優先してやろうって思ってた。
——思ってたのに。
「じゃあ、今日はもう帰るね」
いつもの様に玄関で靴を履く背中を見ながら、妙に落ち着かない気持ちになる。
いつもと同じはずなのに、違う。
原因は、わかってる。
昼間、待ち合わせの場所にいた柔太郎が、たまたま通りがかったサッカー部のやつと親し気に笑ってたこと。 俺の知らない誰かの話で、楽しそうにしてた顔。
たったそれだけのことが、まだ引っかかってる。
「……なあ」
気づいたら、呼び止めていた。
柔太郎が振り返る。
「ん?」
その顔が、いつも通りで。
だから余計に、腹の奥がざわつく。
「今日さ」
言葉を選ぶ余裕もなくて、
「——あいつと話して、楽しかった?」
一瞬、きょとんとされる。
そりゃそうだと思う。
急すぎるし、文脈もない。
「待ち合わせ場所の…話してたじゃん?」
「……あー!あれかぁ。 まあ…普通に」
その“普通”って言い方が、やけに引っかかる。
「普通ってなに」
自分でも、声が少し強いのがわかる。
柔太郎の眉が、ほんの少しだけ寄る。
「はやちゃん?」
止まれ、と思う。
これ以上はよくないって、頭ではわかってるのに。
「笑ってたよな」
止まらない。
「楽しそうだった」
言ってることが、ただの言いがかりだってことも。
「……それ、ダメなの」
静かな柔太郎の声。
責めてるわけじゃないのに、今の俺にはちゃんと刺さる。
「ダメじゃない」
即答する。
そんな権利、俺にあるわけない。
「でも」
一歩、近づく。
自分でも、何してるかわからないまま。
「——ああいう顔、あんまり他で見せんなよ」
言った瞬間、やばいと思った。
空気が、はっきり変わる。
柔太郎が、目を見開く。
当然だ。
今のは、ただの“お願い”じゃない。
ほとんど、押しつけだ。
「……なんで」
小さく返ってきた声が、少しだけ硬い。
その一言で、やっと我に返る。
——何やってんだ、俺。
「……ごめん」
すぐに言う。
でも、遅い。
「今の、忘れて」
手を伸ばしかけて、やめる。
触る資格がない気がした。
柔太郎は少しだけ黙って、それから小さく息を吐いた。
「はやちゃん、たまにそういうとこある…よね」
怒ってるわけじゃない。
でも、完全にいつも通りでもない。
その中途半端な距離が、一番きつい。
「……ほんとにごめん」
情けないくらい、同じ言葉しか出てこない。
沈黙が落ちる。
さっきまでの空気が、嘘みたいに冷える。
帰らせた方がいい。
これ以上一緒にいても、たぶんろくなことにならない。
「おくってく」
反射みたいに言ってしまって、
「いや、いいよ」
すぐに返される。
やっぱり、そうなるよなって思う。
「一人で帰れるから」
当たり前の言葉が、少しだけ距離を作る。
「ああ」
それしか言えない。
ドアが開いて、閉まる音がやけに大きく響いた。
——最悪だ。
壁にもたれて、ゆっくりしゃがみ込む。
頭を抱えながら、 さっきの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
“見せんなよ”
何様だよ。
そんなこと言っていい立場じゃないのに。
嫌われても、おかしくない。
むしろ当然だ。
「……はあ」
深く息を吐いても、全然軽くならない。
好きだから、なんて言い訳にもならない。
ただ、自分の感情を押しつけただけだ。
ポケットのスマホが、やけに重い。
連絡するべきか、迷う。
でも、今送ってもただの自己満足だってわかる。
ラインの画面を開いて、消す。
開いて、また消す。
結局、何もできないまま。
「……ほんと、だせえ」
小さく呟いて、目を閉じる。
あいつの顔が浮かぶ。
さっき、少しだけ傷ついた顔。
——あんな顔、させたくなかったのに。
守りたいと思ってたはずなのに、
一番近くで、傷つけてる。
最低だな、って思う。
それでも。
「……好きだわ」
どうしようもなく、そう思ってしまう自分がいて。
それが一番、厄介だった。
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