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第7話▶︎Kiss Plan / side柔太郎⇨勇斗⇨柔太郎
あれから少し経って、 気づけばまた”はやちゃん”の部屋にきていた。
“元通りか”と聞かれたら、たぶん違う。
前よりも、話題選びには慎重になるし
返事のひとつにも、妙に神経がいく。
——たぶん、それはお互い様で。
ふとした時に、 あのときの空気が、まだどこかに残っている気がする。
……こんなの、嫌だ。
喉の奥がひりつく。
俺は、
はやちゃんって呼べなくなるような俺に、
戻りたくなんてない。
映画を流しているのに、どっちもほとんど見ていない。ふいに、 柔太郎がぽつりと呟いた。
「……なんか静かだね」
「だな」
短く返しながら、横目で様子を伺う。
前なら、ここで適当にちょっかい出してた。
でも今は、少しだけ迷う。
——どこまで踏み込んでいいのか。
その一瞬のためらいを、
「はやちゃん」
見透かされたかの様に名前を呼ばれて、思考が止まる。
「この前のこと」
胸の奥が、少しだけ強く鳴る。
まだ、ちゃんと終わってなかった話。
「……うん」
自然と、姿勢が正しくなる。
柔太郎は少しだけ視線を落としてから、
「俺、あのあとしばらく考えてて」
ゆっくり言葉を選ぶみたいに話し始める。
「はやちゃんがああいうこと言ったの、嫌だったのは本当」
はっきり言われて、ちゃんと刺さる。
でも、目は逸らさない。
「でも」
少しだけ、顔が上がる。
「あれ、全部嘘じゃないんだなって思って」
言葉の意味を、頭の中でなぞる。
「どういう意味だよ」
思わず聞くと、少しだけ困ったみたいに笑った。
「嫉妬してくれたの、ちょっと嬉しかった」
一瞬、言葉が出てこない。
「もちろん、言い方は嫌だけどさ」
付け足されて、苦笑が漏れる。
「それは…ほんとごめん」
「ん、いいよいいよ」
さらっと返されて、少しだけ救われる。
柔太郎は少しだけ、 間を置いてから
「だから」
ゆっくり、一歩近づいてくる。
さっきまでより、確実に近い距離。
「俺も、ちゃんと返した方がいいかなって思って」
「……なにを」
喉が、少し乾く。
「はやちゃんが思ってるより、ちゃんと好きってこと」
まっすぐ言われて、息が止まる。
逃げ場のない距離で、そんな顔されるのはずるい。
「はやちゃんといるのが、一番楽しいよ」
あの日の言葉を、なぞるみたいに。
でも今度は、柔らかく。 ちゃんと届く形で。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
「……それ、反則だろ」
思わずそう漏れる。
「なんでだよ」
「こっちが、我慢してたの全部意味なくなる」
本音だった。
触れないように、踏み込みすぎないように。
全部気をつけてたのに。
「我慢しなくていいよ」
あっさり言われる。
少しだけ、挑発みたいに笑って。
「ちゃんと戻りたいもん、俺」
その言葉で、最後のブレーキが外れる。
ゆっくり手を伸ばす。
今度は、ためらわない。
柔太郎の頬に触れると、少しだけ目が細くなる。
拒まれない。
それだけで、十分だった。
「……触っていい?」
確認するみたいに聞くと、
「もう触ってる」
小さく笑われる。
その顔に、どうしようもなく安心して。
少しだけ引き寄せる。
距離が近づいても、もう怖くはない。
ちゃんと、お互いわかってるから。
目を閉じる直前、柔太郎が小さく息を吸うのがわかる。
そのまま、今度は頬じゃなくて、 まっすぐ唇に触れる。 一瞬だけのはずなのに、やけに長く感じる。
離れると、ほんの少しだけ名残惜しくて。
でも、無理に繋ぎ止めたりはしない。
「……どう?」
思わず聞くと、 柔太郎は一拍置いてから
「ちゃんと、好きだよ」
少しだけ照れた顔で、そう言う。
意味のわからない返事なのに、
ちゃんと意味がわかる。
「そっか」
今度は、自然に笑える。
さっきより、ほんの少し近い距離で。
また、唇が唇に触れる。
さっきよりも、少しだけ深く。
でも、急がない。
ゆっくりでいいって、お互い思ってるから。
離れたあとも、距離はそのまま。
どっちも動かない。
「……帰りたくないな」
ぽつりと落ちた言葉に、 少しだけ笑う。
「いいよ」
今度は、迷わず答える。
「いいよ」
額が触れそうな距離で、静かな声が答える。
あの日の強引さが嘘みたいに、
声は落ち着いていて——余計に、逃げ場がない。
「……なんか怖い」
正直に言うと、ほんの少しだけ目を細められる。
「そっか」
否定も、慰めもない。
ただ、そのまま指が頬に触れて、 ゆっくりと撫でられる。
余裕のある手つきに、 逆に心臓がうるさくなる。
「じゃあ、ちゃんと見てろ」
低く言われて。
視線を逸らす前に、軽く顎を上げられる。
逃がさない、でも無理やりじゃない距離。
そのまま、ゆっくりと唇が重なった。
——柔らかい。
さっきみたいな強さはないのに 、 離れる気配もない。 触れたまま、ほんの少し角度を変えられて、 呼吸が重なる。
「……ん」
浅く、何度か繰り返されるキスに、
だんだん息の仕方がわからなくなる。
「ほら、大丈夫だろ」
唇が触れたまま、かすれた声で囁かれる。
その余裕が、ずるい。
「…はやちゃんが、そうさせてるから」
やっとの思いで返した言葉に、
ふっ、と小さく笑われる。
「知ってる」
次のキスは、少しだけ深い。
でも、さっきみたいに奪うんじゃなくて、
確かめるみたいに、ゆっくりと。
逃げようと思えば、逃げられるはずなのに。
その隙を、与えられてるのに。
——離れたくない。
そう思ってしまった時点で、
もう答えは決まっていた。
「……ほら」
指先で、軽く唇をなぞられる。
「自分から来いよ」
試すみたいな声。
一瞬だけ迷って。 でも、次の瞬間には
自分から距離を詰めていた。
触れにいった唇を、 すぐに受け止められる。
さっきよりも近く、 さっきよりも深く。
静かなのに、
どこまでも逃がしてくれない。
「……やっぱ無理だな」
わずかに崩れた声が、耳元に落ちる。
「こんな顔で来られたら」
そのまま、今度は少しだけ強く引き寄せられる。
さっきまでの余裕を滲ませたまま、
でも確実に熱を帯びた唇が落ちてくる。
ゆっくり、深く。
息を奪われるたびに、
身体の奥まで、熱が染みていく。
この人に触れられるたびに それでもいいって
思ってることも。
「……もう、十分だから」
小さく返すと
「俺は、まだ足りないけど」
間を置かずに返される。
でも、それ以上は何もしてこない。
ただ、抱きしめられたまま。
その距離が、 さっきよりもずっと落ち着くことに気づいてしまう。
「……ね」
ぽつりと、耳元で落ちる声。
「好きって言ってよ」
少しだけ、笑う気配。
「柔太郎の可愛い声で」
俺の顔が 一気に熱くなる。
「さっき言った」
ぼそっと言うと
「聞こえなかった」
わざとらしく返されて。
そのまま、軽く頭を押さえられる。
「ちゃんと、顔見て言え」
意地悪なのに、 どこか優しい声。
少しだけ迷って。
それでも、腕の中のまま、 顔を上げる。
顔を見たら、 また鼓動が速くなる。
「…大好きだよ」
俺の本心に、 一瞬だけ、目が細められて。
「ありがと」
今度はさっきよりもずっと静かに、
でも熱く深く、抱きしめ直された。
もう、さっきみたいな激しさはない。
ただ、離さないっていう意思だけが、
じんわり伝わってくる。
その温度に包まれながら、
どうかこのままで、って思ってしまうんだ。