第4話:告白の予行演習
「じゃあ、《沈黙》と《距離感》、同時に出してみて」
放課後の体育館裏。
制服を少しアレンジして着こなす少女が、カードを手に持って言った。
大石リノ──ミオの隣の席の子。巻き髪、リップ付き、話題のコスメに詳しい。
彼女はいま、“恋レア模擬告白部”のリーダーをしている。
「はいっ、じゃあ照れてる感じ出して~!」
リノの指示で、ペアになった男女が演技を始める。
カードの力が作用し、ふたりの間に気まずい沈黙と、ほんのわずかな距離感が演出される。
周囲から「リアル!」「わかるその間!」と声が上がった。
いま、学校では恋レアカードを使った**“模擬告白”**が流行している。
本番前の練習として、カードの効果を試すイベントが、部活動のように行われていた。
「……演技、なのに本気っぽい……」
端で見ていた天野ミオは、思わずつぶやいた。
その声に気づいたリノが振り向く。
「ミオもやってみなよ! ちゃんと練習しなきゃ、“失敗告白”になるよ?」
彼女の笑顔は悪意がない。でも、その無邪気さが少し怖かった。
ミオはカードを取り出す。
《鼓動伝達》《見つめ返す》《一歩踏み出す勇気》。どれも発動条件が“感情的すぎる”ものばかりだ。
演技でそれを満たせばいい、という風潮が広がっていることに、ミオは違和感を覚えた。
そのとき、背後から声がした。
「練習で“好き”って言えたら、それ、もう演出じゃなくなるんじゃないか?」
大山トキヤだった。
白いシャツの袖をまくり、飾り気のない立ち姿。無表情でミオたちを見ている。
「演技のつもりで気持ちが動いたら、それはもう、“偽恋”じゃ済まない」
「カードの練習って、誰のためにやってるの?」
その言葉に、リノの笑顔がほんの少しだけ固まった。
──演出は、感情をなぞるものか。それとも、感情を育ててしまうものか。
ミオは、自分の心のどこかがざわつくのを感じていた。
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