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第5話:バズった恋ログ
翌朝、教室に入った天野ミオは、何人かの視線を感じた。
ひそひそ──
「この子じゃない? 昨日の《再定義》ログの……」
「え、ウルトラレアってほんとにあるんだ……!」
自分の名前は誰も呼ばない。
でも、確実に“誰かとして”見られていた。
昨夜──ミオは試しに、誰もいない帰り道で《一目惚れの再定義》をスキャンしてみた。
相手はいなかった。ただ、夜の空気と、胸の鼓動だけをトリガーに。
そのログが、なぜかSNSの恋レアボードに掲載され、AI推薦タグ付きでバズっていた。
「“演出じゃない一歩”って、これなんじゃない?」
「たったひとりで、恋を使う勇気」
「#恋レアの真実 #再定義は現実へ」
再生数は3万、引用RTには感動のコメント。
“誰かに届ける恋”ではなく、“自分のための恋”という解釈が広まり、ミオは一夜で“無名の恋レア使い”から注目の存在になった。
でも──ミオはそれを望んでいなかった。
「なんで……投稿してないのに……」
問いに応えるように、アプリに通知が届く。
【お知らせ】
ご使用のログがAI推薦対象に選ばれ、拡散対象として選出されました。
本投稿は削除・非公開ができません。
まるで恋の感情までも、所有権が奪われていくようだった。
すると──教室のドアを開け、ひとりの人物が現れる。
木元楓(26)。
レンアイCARD株式会社 宣伝部主任。
ボルドーのジャケットに、企業ロゴ入りの薄型バッジ。ショートカットと明るい口紅が印象的な女性。
「天野ミオさんですね? はじめまして。あなたの恋、とても素晴らしいです」
名刺を差し出す楓の目は、完全に“営業の目”だった。