恋愛小説家の恋

レストランに着いた理紗子は、入口にいるスタッフに部屋番号を伝えた

すると、チャーミングな女性スタッフが笑顔で理紗子を席へ案内してくれた。

このホテルでは一泊二食付きの宿泊コースを選ぶと、洋食レストランか沖縄郷土料理専門の居酒屋風食堂の二つの店から選ぶ事

が出来る。

理紗子は石垣島に来たら、まず最初に石垣牛のステーキが食べたいと思っていたのでこの洋食レストランを選んだ。

レストラン内を見回すと、カップルの客がほとんどだったが、中には四名ほどのグループもいた。

そして意外な事に一人旅の客もちらほらいた。

今は空前の一人旅ブームだ。それは離島旅にも広がっている。

理紗子が四年前にこの島を訪れた時は、若者の一人旅をよく見かけた。

しかし彼らのほとんどは島の小さな民宿に泊まっていた。

最近ではリゾートホテルでも一人旅プランを設定しているので、このホテルにも一人旅の客が増えているのだろう。

理紗子はそれとなくレストラン内の一人客を観察してみた。

30代位のカジュアルな服装の男性、

その奥には40歳前後の出張と思われる男性、

そして理紗子の隣の席にも60歳前後の女性が一人で座っていた。

一人旅の客が意外に多い事を知った理紗子は急にリラックスする。

自分と同じ一人旅の客がいると、なんだか同士のように思えるから不思議だ。

（私って意外と小心者なのね）

理紗子思わず苦笑いをする。

そこへ料理が次々と運ばれて来た。

まずはグルクンのカルパッチョ。

グルクンをカルパッチョで食べたのは初めてだ。

ワインビネガーとハーブが程よく効き、さっぱりしていてとても美味だ。

思わず白ワインのおかわりをしてしまうほどだ。

次にトマトの冷製スープと新鮮野菜のサラダが続き、いよいよメインはお待ちかねの石垣牛ステーキだ。

四年前に洋子と食べた石垣牛のステーキは、柔らかくて脂も上品でとても美味しかった。

石垣島を訪れたらまた絶対に食べようと心に決めていた。

その願いが初日に叶ったので、理紗子はかなりご満悦だった。

ついついワインも進んで既に三杯目になっていた。

すっかりほろ酔い気分になった理紗子は、心も身体もフワフワとした心地よさに包まれていた。

理紗子が座っていたのはプールサイドに面した窓際の席だ。

プールサイドの向こうには、先程夕日を見た砂浜が見える。

松明の明かりがうっすらと夜の海を照らしてくれていた。

海を感じながらこんなに美味しい料理を堪能できるなんて、本当に今まで頑張ってきてよかった。

理紗子は感慨深げな様子で、最後のデザートを食べ始める。

そして最後にゆっくりとコーヒーを飲んでから一人旅第一日目の夕食は終わった。

理紗子はレストランを出るとホテルのバーへ行ってみる事にした。

女の一人旅＝バーのカウンターで一人酒

一度これをやってみたかった。

恋愛小説にも使えそうなネタだ。

理紗子はエレベーター脇にある館内の案内図を見てバーの位置を確認すると、早速ホテルのバーへ向かった。

ホテルのバーに足を踏み入れると、何人かの客が静かに飲んでいた。

夫婦や恋人同士で飲んでいる人が数組、そして友達同士と思われる女性二人組がテーブル席で軽いおつまみと共に酒を楽しん

いる。

バーの店内はとても品のあるインテリアで、少し落とし気味の照明がとてもムーディーだ。

カウンター席は空いていたので、理紗子は迷わずカウンターへと向かった。

そして一番右端の席へ座る。

すると、すぐに40代位のバーテンダーが近づいて来て「いらっしゃいませ」と理紗子に声をかける。

「こんばんは」

理紗子はメニューを見ながらカクテルを注文する。

「アプリコット・フィズをお願いします」

「かしこまりました」

バーテンダーはすぐに理紗子のカクテルを作り始めた。

実は理紗子はあまり酒に強くはなかった。

普段飲みに行く時は、洋子と行く居酒屋くらいだ。

だからこういった大人の雰囲気のバーにはほとんど行った事がなかった。

今理紗子が注文したカクテルは、洋子に教えてもらったものだ。

度数も低く、甘いわりにさっぱりしていて飲みやすいと洋子が言っていたのを覚えていたので注文してみた。

夕食の時、既にワインを三杯飲んでいたので軽いカクテルくらいがちょうどいい。

こんな素敵なバーでは、雰囲気に酔うだけで満足だ。

それにバーに来た目的は、取材の為でもある。

小説に使えそうなバーのネタを仕入れる為に来たのだから、本格的に酔う訳にはいかない。

そう、理紗子には取材という使命があるのだから。