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騎士団長は恋と忠義を区別できない

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騎士団長は恋と忠義を区別できない

18 - 【第十七話】森への旅路③(ロシェル・談)

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2025年11月26日

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「……——シド、シド」

何度も声をかけるが、彼が目を開ける気配がない。


(大丈夫かしら……)


バルドニス近郊にある転移ポータルがある広場の木陰の下。等間隔に並ぶベンチの一つに私は今座っている。横たわるシドは私の膝に頭を預けて眠り、シュウとサビィルはそんなシドのお腹の上で彼につられてお昼寝中だ。

私の膝枕で規則的な呼吸を繰り返すシドの顔をじっと見詰めていると、心臓が少しだけ鼓動を早めた気がした。苦労を重ねてきたからなのか、眉間にいつもシワが入った表情をしているシドは、眠ると少し子供っぽい雰囲気になると初めて知った。左目の上には大きな切り傷が残っていて痛々しいが、彼には妙に似合っていてカッコイイなとも思ってしまう。よく見ると小さな傷跡が他にもあって、『戦場に出ていた』と話していた彼の言葉を嫌でも思い出させた。

そっと彼の頰に触れるとシドが少しだけピクッと震えたが、目を開ける事は無かった。

全く知らない世界にいきなり引っ張られてしまったのだ、日々の疲れが出たのもあるかもしれない。それが自分の我儘のせいだと思うと心が痛んだが、『巻き込まれた』という形であっても、この出逢いには感謝しかない。『言ってもわかってはもらえない』と心の壁を作ったり、気遣いながら話さなくてもいい相手に逢えたから……


(——それだけ、なんだろうか?わからないわ)


彼の肌に触れ、自分とは違う硬い質感をこっそり堪能していると、ギュッと胸が苦しくなったのに、何でか口元がふにゃぁと緩む。短く切りそろえてあるシドの髪に触れると、意外に柔らかくて、いつまででも撫でていたくなった。

膝に感じる重さは、私に、彼が側に居る事の安心感を与えると同時に、一人の異性である事を意識させた。


(貴方は……“使い魔”では無く、一人の“人間”なのね)


父からシドは『召喚に巻き込まれただけだ』と聞いた時は、本当にショックだった。『じゃあ、何故彼は、私の使い魔のフリをしてくれているのか』と。

会ったその日に『友達が欲しい、だから使い魔を召喚してもらった』なんて話した事が原因だとしか思えない。私の子供じみた望みを叶えようとしてくれているシドの優しさが、私の心を締め付ける。


呼吸が苦しくなったり、胸が痛くなったり、口元が変に緩んだり……随分と私の体が騒がしい。

この感じは何なんだろうか?


答えがわからないまま彼を見ていると、シドの口元がほんの少し開いた。口の中の白い歯がチラッと見えて、無性に触れたくなってきた。

止める者が居ないのを良い事に、指先でシドの赤い唇をつぅとなぞる。温かな吐息を指に感じ、しっとりとした唇がやけに美味しそうな果実の様に思えてきた。『どんな味がするの?』なんて不謹慎な事を考えてしまいながら指先で彼の唇を撫で続ける。人差し指、中指、薬指……と、指頭や手の甲で撫でていると、私が彼に愛撫でもされているみたいな雰囲気になってきた。


(何をしているんだ、私は……)


そう思うのに心地よくて堪らず止められない。先程の比では無い程呼吸が乱れ、無意識のまま私がシドの唇へ顔を寄せた、その時だ——


シドの目がパチッと見開かれ、至近距離で目が合った。


無言のまま、シドと私が見詰め合う。彼は状況を掴めず、私は自分の行いの不謹慎さに固まってしまい動けないといった感じだ。


「……ロシェル?」


か細い声で呼ばれ、私は慌てて上体を起こし唇から手を離した。後ろめたさから私は降参のポーズをとり、何もしていないアピールをし、口元を引き結んで羞恥に耐えた。


(お願い!何をしていたのかなんて、気が付かないで!)


必死に心の中でそう叫んでいると、シドが「此処は?」と視線だけ周囲にやりながら訊いてきた。

「さ、最北の都市・バルドニス近郊にある転移ポータル広場です。シドは魔法酔いしたみたいで、此処へ飛んですぐにフラついた足取りでベンチまで行き、眠ってしまったんですよ」

声が上ずってしまったが、その事は追求しないで欲しい。

「……魔法酔い?」

「えぇ。魔力にあまり触れていない者がたまになる現象です。シドはまだ魔力不足なので、転移ポータルの魔力に酔ってしまったのでしょうね。……疲労が原因の可能性も、捨てきれませんけども」

「なるほどな」

シドが納得したという声色でそう言うと、自分の腕を目の上に置いた。まだ少し気持ち悪いのかもしれない。

「水でも飲みますか?」

「いや、大丈夫だ。もう少しこのままで……」


(あら、このままでいいの?嬉しいわ)


そう思って微笑むと、シドが「……ん?このまま?」と小声で言った。そっと目元を隠していた腕を動かし、私を見上げる。再び目が合い、少し照れ臭い気持ちになっていると、シドの顔色が急激に悪くなっていった。

さっと頭を動かし、彼が私のお腹を見た瞬間、シドは慌てて上体を起こして

「すまない!こんなっ‼︎」

と、周囲に迷惑だと思う声で叫んだ。

「ぎゃっ!」

「ビャッ!」

シドの上で寝ていたサビィルとシュウが同時に声をあげ、彼のお腹から地面に転げ落ちた。

「大丈夫?二人とも!」

サビィルはすぐに体勢を立て直し、「急に飛び起きるとは何事かっ」と文句を言ったが、シュウは地面でベタッと倒れたまま不貞腐れた様な雰囲気を漂わせている。

「悪い、つい」と言い、首の後ろをさすりながらシドが謝罪した。


「ど、どれくらい寝ていた?」

周囲を見ながらシドが私に尋ねる。

「二、三十分程度ですよ」

「そんなにか!」

彼がそう叫んだと同時に顔が真っ赤に染まり、林檎の様になった。……可愛い。

「本当にすまない、重かっただろ?」

「いえ、心地よかったわ」

シドを安心させたくて微笑みながらそう言うと、彼が「こ、ここちいぃって!」なんて言葉をこぼしながら口を手で素早く塞いだ。


(何を慌てているのかしら?もしかして、私が沢山シドに触れていた事に気が付かれた?)


そう思うと変な汗が額から滲み出る。

「もう動けるか?動けるならもう行くぞ、暗くなる前には森の前までつかねば」

すっかりリーダー役となったサビィルがそう告げはしたが、欠伸をしていてまだ眠そうだ。シュウは機嫌を持ち直したのか、私の肩へと飛び乗り、フード越しに頭を擦り付けてくる。

「あぁ、そうだな。すまない俺のせいで」

「いいのですよ、無理はいけませんから」

私の言葉にシドが微笑んで返してくれ、キュッと私の胸の奥を掴まれた気がした。


彼がベンチの側に置いてあった大きな荷物と大剣を持ち上げて肩に掛けると、サビィルがシドの頭へと留まった。

「転移ポータルの近くには必ず、馬車を貸し出す店や旅路を支える商店などが並んでおる。そこへ行き、馬車を借りるぞ。金の心配は無い。全て主人あるじ持ちだ!」

梟なのに踏ん反り返ってみせる姿が愛らしい。が、費用が全て父の負担であるという事はこんなに威張って言う程の事なのだろうか。

「わかった。旅慣れしていて、お前は頼もしいな」

「ふふん。そうじゃろう、そうじゃろう?お礼に撫でてくれても良いのだぞ?」

「あぁ、わかったよ。でも後でな」

サビィルがムフムフと変な笑い声をあげる。彼が両親以外にここまで懐くのは珍しいので、見ていてちょっと楽しかった。


「さて行きましょうか。馬車屋はあちらみたいですよ」

転移ポータルの前に出来ている順番待ちの人垣の奥にそれっぽい看板が見えたので、私はそれを指差した。

「よし、じゃあ行ってみるか」

シドの言葉に同意し、私達は店の立ち並ぶ方へと歩き始めた。

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