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#溺愛
桜咲かな
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皆さん、こんにちは~!!
芽花林檎です!!
今回も続きに参りたいと思います!
それでは、ご覧ください!!
市場の喧騒が、二人の間を流れていく。
魚屋の声。
子供たちの笑い声。
ランタン。
風が吹くたびに、橙色の煌めく宝石は揺れ、夕闇に淡い光を灯していく。
でも。
暖樹(はるき)には、それが、遠い世界にあるような気がした。
暖樹は何か話そうとする。
そう、隣にいる、あの、知らない少女にー
名前も知らない。
何者なのかも知らない。
どこに住んでいるのかだって。
知っているのは、
ただ一つ、暖樹が知っているのは、
この少女が蝋燭を拾って、その橙色の光を子供に渡したことだけだった。
「……..よく来るんですか」
気づけばそんな言葉を暖樹は発していた。
少女は少し考えるように市場を見渡す。
「時々」
短い返事だった。
だが前よりは長い。
暖樹は少しほっとした。
会話が終わらないから。
「僕はたまにです」
ー言ってから、少し考えた。
だから何なんだろう…..
知らない少女もそう思っているのかもしれない。
特に反応はなかった。
でも。
その沈黙が、居心地の悪いものではなくて。
暖樹は不思議に思った。
少女は再び硝子の装飾を見る。
夕暮れの光を受けた硝子は綺麗だった。
鮮やかな濃淡のあるグラデーションを、
ただ静かに映しだしている、
空の欠片。
「……..、空、みたい」
暖樹は驚いた。
今度は、少女のほうが先に言ったから。
初めて、彼女から、出た言葉だったから。
「え?」
少女は硝子の装飾へ視線を向けたまま続ける。
「その色。綺麗」
暖樹も同じ方向を見る。
確かに。
夕暮れの色を柔く映している。
「本当だ」
そう言うと、
少女は僅かに、
気のせいだったのかもしれないけれど、
僅かに、目を細めた。
笑ったわけではない。
だけれど、
どこか柔らかい表情だった。
ー空、が好きなのだろうか。
暖樹は少しそう思った。
理由はわからない。
でも、そう思った。
再び。
沈黙。
けれど今度の沈黙は少し違う気がした。
先刻までの沈黙は二人の間を隔てる壁のようだった。
でも、今の沈黙は。
ー同じ、空、を見ている時間だった。
市場の明かりが一つ、また一つと増えていく。
そのたびに、橙色の宝石は、静かに輝きを増していく。
空の群青は深くなっていく。
少女は、その空を見上げた。
ー何故だろう。
ーどうしてこんなことを思ったんだろう。
その顔が。
その、横顔が。
ほんの一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
寂しそう、に見えた。
暖樹は理由を知らない。
だから訊かなかった。
代わりに、ただ同じ空を見上げた。
群青と橙が溶け合う、
冬の、綺麗な、夕暮れだった。
夕暮れは終わりに近づき、
群青色がゆっくりと空を染めていく。
橙色の宝石の輝きは、
石畳の上に揺れていた。
暖樹は空を見上げる。
少女も、見ている。
同じ空なのに。
何故だろう。
違うものを見ている気がした。
「夕方の空、好きなんですか」
少女はすぐには答えなかった。
少しだけ考えるような間があった。
「……..好き」
静かな声だった。
「朝よりも?」
ー少し気になった。
朝の空の色と、夕方の空の色、
暖樹の目には違って映る。
同じ、群青色なのかもしれないけれど。
同じ、橙色なのかもしれないけれど。
何故か、違う色だと思ってしまう。
暖樹はどちらの空も好きだ。
どちらにも、それぞれ、素的だ。
言葉でうまく言い表せないけれど。
とても、好きだ。
だから気になった。
だから、聞いてみた。
少女、の見ている空、の色を。
でも。
不思議だった。
彼女が、首をわずかに傾げた後、こう答えたのだ。
「朝の空、私、よく知らない」
ーえっ。
知らない?
その言葉が、妙に、心の中に、引っかかった。
知らない。
知らない?
知らない?
そんなこと、あるのだろうか?
空は、毎日ある。
朝になれば見える。
誰だって、
小さな子供だって、
知っているはずだ。
いや、知識として知っているというより、
毎日見ていて、
日常の一部になっているはずだ。
だが、彼女は平然と言った。
その、平然さも、どうも気になった。
まるで。
ー本当に、知らないかのように。
暖樹は何かを感じた。
だけれど理由は知らない。
追及もしなかった。
「僕は朝の空も好きですよ」
少女がこちらを見る。
相変わらず、その瞳は、驚くほど静かだった。
ーまるで、凪いだ湖のように。
「そうなの」
「冬の朝とか特に」
暖樹は少し笑う。
「寒いですけど」
すると。
本当に、僅かだった。
暖樹は一瞬目を疑う。
笑った。
いや、笑ったというほどではない。
ただ。
氷の、表面に、小さな罅が入ったような。
そんな変化。
気のせいだったのかもしれない。
もしかしたら、見間違いかもしれない。
でも。
前、市場で見かけた時より。
子供に、蝋燭を渡した時より。
硝子の装飾を見ていた時より。
ずっと、
ずっと、
ー人間らしく見えた。
暖樹は何故だか嬉しくなった。
理由は知らない。
話せたからではない。
何かを知れたからでもない。
ただ。
ーこの人にも、こういう表情があるんだな。
ただ、それだけを思った。
ーランタンの光が、柔く、淡く、辺りを照らす。
雑貨屋の、店先で。
今回もお読みいただきありがとうございました!!
まだまだ続きますよ!
次のお話もぜひご覧ください!
フォロー、コメント等お待ちしております!
余談:Xも始めました。フォロワーさんが今のところいらっしゃらないので、ぜひ、一人目になっていただきたいです、ここまでお付き合いくださったので!
リンク貼付しておきますので、ぜひ、興味がある方、お願いします!!
Link→ https://x.com/RingoMebana
2026/08/02 芽花林檎
コメント
2件
ありがとうございます!
夕暮れの市場の空気感がとても綺麗でした。まだ名前も知らない二人が、同じ空を見上げるだけで少しずつ距離が縮まっていく感じ、良かったです。特に「朝の空、私、よく知らない」の言葉が気になりました。何か事情がありそうで…。笑顔らしき表情が見えた瞬間、私まで嬉しくなりました。続きが気になります!