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それから詩帆は、あえて明るく涼平に話しかけた。

今度自分が働くフリースクールについての話を、一生懸命涼平に聞かせた。

自分が今考えている授業や、生徒達に体験させたい事等を細かく涼平に説明した。

すると涼平は真剣に耳を傾け、詩帆へアドバイスをしたり新しい提案をしてくれたりと、二人はドライブ中ずっと前向きな会話を続けていた。


車が目的地付近に近づく頃には、涼平はすっかり元気を取り戻していた。

そんな涼平を見て、詩帆はホッとしていた。


やがて車は海沿いの駐車場へ到着した。

そして二人は車から降りる。


駐車場の横にある階段を下りると海沿いに遊歩道が続いている。

涼平は詩帆の手を取るとその遊歩道を歩き始めた。


街灯はほんの少ししかなく辺りは薄暗い。しばらく歩いた二人は歩みを止めた。


目の前の海には岩場が広がり、その向こうには果てしなく真っ暗な夜の海が続いていた。

岩に打ち付ける波の音がダイナミックに響いている。

雲一つない夜空には無数の星が瞬いていた。

その中にうっすらと天の川のようなものが見えたので、詩帆がびっくりして涼平に聞く。


「あれは天の川?」

「そうだよ。ここからは天の川が肉眼で見えるんだ」

「うわぁ、綺麗!」


詩帆は目の前に広がる天然のプラネタリウムに感動し、思わず声を上げた。

しばらくその見事な星空を眺めた後、詩帆は涼平に聞いた。


「ここにはよく来るの?」

「二年ぶりくらいかな? 菜々子が亡くなった後はしょっちゅう来てた。ここだと知り合いにはほとんど会わないからね」


詩帆はその時の涼平を想像して切なくなる。

彼はこの場所に来て一人悲しみを乗り越えようとしていたのだ。


詩帆は、目の前に広がる岩場を見てあえて明るく言った。


「ここは釣りもできそうじゃない?」


詩帆の言葉に涼平はハハッと笑ってから、夏休みは子供たちがここで釣りをしているみたいだよと教えてくれた。


それからこの浜は真鶴半島の琴ヶ浜だと教えてくれた。

詩帆は、真鶴半島には昔、両親とドライブに来た事があると話した。

漁協直営の食堂で美味しい海鮮料理を食べたと懐かしそうに話す。


その時涼平が言った。


「詩帆ちゃん、ありがとう」

「え?」

「俺、君にずっと癒されてばかりで……本当だったら年上の俺が癒してあげなきゃいけないのに。自分でも不思議なんだけれど、君の前ではみっともない自分もさらけ出せる気がしてつい甘えちゃってるな」


涼平の言葉を聞いた詩帆は言った。


「『俺といる時は自然体の詩帆ちゃんでいる事』って、前に夏樹さんが言ってくれたでしょう? あれ、すごく嬉しかった。だから私の前でも自然体でいて下さい。その方が私も嬉しいし」

「ありがとう」


涼平はそう言うと、詩帆の両手を握った。そして詩帆と向かい合う。


「俺、今すごく詩帆ちゃんにキスしたい。してもいいかな?」


詩帆は一瞬びっくりしていたが、少し考えるような表情をした後、覚悟を決めたように頷いた。


すると涼平は右手で詩帆の後頭部を支えると、詩帆に優しいキスをした。

詩帆はその瞬間緊張で体に力が入ってしまう。それに気づいた涼平が聞いた。


「もしかして、キスも初めて?」


詩帆は恥ずかしそうに頷く。

涼平は信じられないといった表情を浮かべる。

そして優しく詩帆に言った。


「キスにも色々種類があるんだよ。いいかい? これはライトキス」


涼平は詩帆のおでこや頬、瞼や鼻にキスを始める。

詩帆はくすぐったくて思わずフフッと笑った。

その笑った唇に、涼平の唇が優しく触れた。


「そしてこれはプレッシャーキス」


涼平は、今度は詩帆の唇に少し長めに自分の唇を重ねる。

その途端、先程まで力が入っていた詩帆の身体は急に力が抜けて立っていられない状態になった。

それに気づいた涼平は、詩帆を両腕で包み込むように抱き締めた。


「それじゃあ、最後にディープキス」


涼平は少しかすれた声で言うと、詩帆の後頭部をしっかり右手で支えながら詩帆の唇を強く奪った。

そして詩帆の耳元で、


「口を少し開けてごらん」


と囁く。詩帆が言われた通りに口を少し開けると、涼平の舌がその中に入ってきた。


詩帆は今まで経験したこ事のない感覚に戸惑い、身体がガクガクと震え出す。

そんな詩帆をしっかりと抱き締めながら、涼平は詩帆に激しいキスを続けた。


どのくらいそうしていただろうか?

涼平が漸く唇を離した瞬間、涼平のお腹がグーッと鳴ったので二人は笑い声を上げる。

その時二人はまだ夕食を食べていない事に気づいた。


「腹減ったな。じゃあこれから涼平様オススメの美味いラーメン屋に直行するぞー!」


涼平が威勢よく言うと、まだ涼平のキスの余韻でふらふらになっていた詩帆が、


「た、楽しみー!」


と、なんとも頼りない声を上げたので涼平が大笑いする。


「詩帆、大丈夫か?」


その時初めて涼平は詩帆の事を呼び捨てにした。

詩帆はドキッとしたが、嫌な感じは全くしなかった。


そして詩帆は「うん」と返事をすると、涼平が差し出した手を掴む。

それから二人は手を繋いで駐車場へ戻って行った。


二人を見守るように輝いていた幾つもの星々は、更なる輝きを増して大きな天の川を彩っていった。



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