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第8話:スカウト
週明けの放課後、校門前。
冬の日差しが傾き、道路沿いの街路樹に淡い緑や橙の香波が絡みついて揺れていた。
その下で、拓真はピーコートにグレーのマフラーを巻き、手にした鞄を握っていた。先週までの猫背がなくなり、背筋が自然と伸びている。
隣の庭井蓮は、ロングコートに黒の手袋。琥珀色の瞳が遠くを見据え、風に揺れる髪を片手で押さえていた。
「春瀬拓真くんと……庭井蓮くん、だね」
声をかけてきたのは、スーツ姿の中年男性だった。深緑のネクタイに、胸元のバッジ——香波対策局の紋章が輝いている。
香波社会では、対策局は香波犯罪や災害時の初動を担う重要機関だ。局員は高度な香波制御技術を持つ精鋭であり、若い才能のスカウトにも力を入れている。
「先日の路地での対応、見させてもらったよ。あれだけ短時間で赤を出せて、しかも絶香者との連携ができる高校生は珍しい」
男性は書類を差し出す。それは対策局の研修プログラムへの参加案内だった。
拓真は一瞬ためらう。学校生活と訓練の両立は簡単じゃない。しかし蓮が低く笑う。
「面白そうじゃねえか。現場でしか学べないこともある」
返事を保留にしたまま、二人は駅へ向かう。
その途中、商店街の大型スクリーンに香波ニュースが流れていた。
《赤香波の暴走、今年に入り20件超》
映像には、暴走者を取り押さえる局員の姿。淡い青の防御波と赤の攻撃波が交差し、観衆が距離を取って見守っている。
——あの場所に、自分も立てるかもしれない。
拓真は胸の奥で、緊張と高揚を同時に感じていた。
「……行くよ、俺。もっと強くなるために」
その言葉に、蓮は口元をわずかに緩めた。
「じゃあ決まりだな、相棒」
夕暮れの駅前、赤く染まる空と香波の光が重なり、二人の影は長く伸びていた。