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第9話:研修初日
土曜の朝、香波対策局の本部ビル。
ガラス張りの外壁が冬の陽を反射し、エントランスの自動ドア横では、局の紋章入りの旗がはためいている。
玄関前には、研修に参加する若者たちが集まっていた。赤や橙、紫といった様々な色の香波が、寒空の下で淡く揺れる。
春瀬拓真はスポーツジャケットに灰色のトレーニングパンツ。体型はまだ細いが、肩のあたりに筋肉の厚みが出てきた。
庭井蓮は濃紺のロングコートの下に黒のジャージを着込み、長身をさらに際立たせている。束ねた髪の先が、冷たい風に揺れていた。
受付でIDカードを受け取り、二人はエレベーターで研修フロアへ。
広い室内には模擬市街区が再現され、路地や店舗のセットからは本物のような香波が漂っている。
講師役の局員が説明を始めた。
「ここは現場と同じ条件を再現した訓練場だ。香波濃度計や抑制フィールドも実戦用だ。覚悟して動け」
初日の課題は「ペアで暴走者役を制圧する」模擬戦だった。
暴走者役の局員は、焦げ香と鉄香を混ぜた攻撃系赤波を全身から放ち、障害物の間を素早く動く。
「蓮!」
拓真が声を上げると、蓮は即座に抑制バンドを外し、無香域を展開。暴走者の赤波が一瞬鈍る。
拓真は深呼吸し、昨日までの訓練を思い出す。緑から黄、橙、そして赤へ——
鼓動を一定に保ち、膝下を狙って香波を放つ。赤波が暴走者の動きを封じ、蓮が背後から押さえ込んだ。
「よし、制圧完了!」
講師の声が響く。周囲の研修生たちがざわついた。
「高校生であの安定度……」
「絶香者と組むとあんなに変わるのか」
訓練が終わり、汗を拭う拓真に蓮が近づく。
「初日でこれなら上出来だ。お前の赤、もう偶然じゃない」
拓真は小さく息を吐きながら、頷いた。
——新しい場所でも、自分はやれる。