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#切ない
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わあ、まず「ペンギンと暮らす」って発想に笑っちゃいました!明さんの緊張の仕方が可愛すぎる…。でも、そんな明さんを優しく宥める圭くんの距離感がすごく自然で、もう二人の関係性がじんわり伝わってきました。 そして、対面した奏さんの「少年みたいな人」という第一印象がめちゃくちゃ気になります。これからどんなお姉さん(?)なのか、設定の広がりを感じさせる終わり方ですね。三種三様の緊張の描き方、とても巧みでした。続き、楽しみにしてます!
四月のとある日曜日。
市内にある高級ホテルのロビーで、青鬼明と椿原圭が酷く緊張した面持ちを必死に隠し合いながら寄り添い、細部にまでよく手入れの行き届いた三人掛けのソファーに座っている。
「……い、今にも吐きそうだ」と明が言いながら浮かない顔で俯くと、圭は優しい笑みを浮かべながら彼女の肩にコツンと頭を寄せた。
「んー。だ、大丈夫だよ、少なくともウチの姉さんは怖い人じゃないからさ」
「だ、だが……そうは言っても、なぁ」
黒くて長いストレートの髪を揺らし、シンプルながらも『大人可愛い女性』を思わせるようなデザインをした服を二人揃って着ており、揃いの格好をするくらい仲の良い同性の友人が寄り添っている様にしか見えない。
だが、彼等は正真正銘『男女』のカップルだ。
「なぁ、こんな格好で来て本当に良かったのか?やっぱりスーツを着て来た方が良かったんじゃ」
「いやいや、今日はちゃんとした『挨拶』じゃなくって、ただの『紹介』でしかないから普段着で平気だって。もう……明は心配性だなぁ」
「ふ、不安にもなる!だ、だって『結婚の報告』だぞ?そもそも、初対面で、いの一番にするには重くないか?もっとこう、何度か会って、その後に『結婚する』と伝えるとかじゃダメなのか?今からでも路線変更を試みるとか!」
明のキリリとした瞳が不安で揺れる。だが、無理もないだろう。相手家族との『結婚』を前提とした対面なのだ。もし実際に自分と会ってみて『「こんな人は弟に相応しくない」と反対されたらどうしようか?いっその事、南極にでも二人で逃走するか?そうなると駆け落ちか。あぁぁぁぁぁっ!もうこの際ペンギンと暮らすのも悪くないのかもな!』などと明後日の方向に否が応でも色々考えてしまう。普段は、深く思い悩み、マイナス思考に囚われるタイプでは無い明だが、『結婚』という言葉の重さは彼女の予想よりも遥かに大きかったみたいだ。
「——すみません。お待たせしました」
不意によく澄んだ女性の声が聞こえ、明が脊髄反射的にその場で立ち上がった。直立不動なその姿勢はまるで軍隊の教官を前にした訓練生のようだ。
「あぁ。姉ちゃんが先だったか。今日は来るの早いね。仕事は忙しくなかった感じ?」
「んー……そうでもないですよ」
「は、はじめまして。圭さんとお付き合いさせて頂いている、青鬼明と申します。今日はお忙しい中お越し頂きありがとうございます!」
捲したてるように、敬礼でも添えそうな勢いで明が挨拶をする。そんな彼女に驚いた圭が宥めるように明の服の裾を軽く引っ張った。
「め、明?待って、ちょっと落ち着こう」と圭が声をかける。すると明は、はっとした表情になり、今度は顔を一気に真っ赤にしつつ圭の方へゆっくりと振り返った。
(……す、すまん。今のは流石に焦り過ぎだったな)
(大丈夫だよ。君は本当に可愛いねぇ)
視線だけでそんなやりとりをしていると、真顔をしたままである椿原圭の姉が口を開いた。
「……あのぉ、座っても?」
「もちろんです!」
冷静な声で言われたものだから明は更に焦ったが、すかさず圭が立ち上がって姉の方へ移動し始めた。
「えっと、ボクは姉ちゃんの隣に座るね。この後合流する、明のお兄さんの隣に姉ちゃんが座る事になりでもしたら、姉ちゃん緊張し過ぎて内臓全部吐き出しそうだからさ」
表情を変えぬまま「自分は妖怪か?」と圭の姉が短く答えると、明の緊張が少しだけ解けた。
(えっと……纏う空気感がちょっとツンッとして感じられるのは、もしかして、お義姉さんも緊張しているのか?)
そう思うと、明の中で圭の実姉に対して親近感が湧いてくる。『さっきからいつも以上に明るく振る舞っている圭も、もしかして?』と思いながら対面にある席に移動して行く圭の様子を伺っていると、彼も少し手が震えている事に気が付き、『自分だけではないのだ……』とわかり、明はほっと安堵の息をついた。
三種三様に緊張しながら三人掛けのソファーにそれぞれが座る。圭の隣には彼の実姉である奏が、明はその対面に置かれた席に一人で座り、すっと大袈裟な程に背筋を正した。
「改めまして、ご挨拶を。圭の実姉である椿原奏です。どうかこの先、自分のことは実の姉だと思って貰えれば幸いです。弟共々末永くよろしくお願いします」
さらさらのショートヘアーを揺らしながら、奏が頭を下げる。とても小柄で細身の為、いつもは『女性みたいで可愛いな』と思う圭が、彼女の隣に居ると大きく見える。キリリとした瞳をした奏はこの三人の中で最年長なのだが、一番体が小さいからなのか、最も若く感じられた。
(なんと言うか……圭の『お姉さん』なのに、『少年』みたいな人だな)
それが、この物語の《主人公》となる【椿原奏】に対し、明が抱いた第一印象だった。