テラーノベル
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『最近調子のってるよな?』
『いや、ちがっ……』
『派手な髪色と目。嫌いなんだよ、そういうの。』
『ご、めっ…!』
『───マジで潰したい。』
──────意識が飛ぶほどの、激痛。
ふと目を覚ませば、そこは病院だった。……でも、何で?いつもより視界が狭くて、暗い。怖い。何が起きて俺はここまで来たんだ?何が───
「! ぺんちゃん!」
ふと隣から聞こえた母の声。涙を流しながらも、笑顔でこちらを見ている。それに安心したのも束の間。俺は夢で見た光景を母に話した。
「……ひどく怖い夢を見たんだよ。」
「夢…?」
母は少し表情を曇らせてから俺の言葉を反復した。俺はそれに”うん”と頷いてから夢の話をした。
───酷く痛かったんだ。夢なのに、痛かった。骨が折れたのか、はたまたとれたのか。手術を麻酔なしでやったのか、皮膚を切り裂かれたのか。 でも、相手は怒ってた。 何か俺に怒ってたんだよ。
だから相手は、俺の右目にシャーペンの先を─────────
「……ねぇ、母さん。教えてよ。俺、片目なくなったの?」
ふとした疑問から生まれた質問。それは本当に夢なのか?ということ。あんなにリアルで、グロくて、気持ち悪くて、痛くて…夢でも痛みを再現できるなんてあり得ない。だって、夢なんだから。 それに、俺が今病院にいる理由はなんなの?
……もしそれが、夢じゃなかったら。本当に───片目を潰されたのなら。辻褄は、嫌なほど合う。認めたくないほどに合う。
「…バカじゃないの?そんなわけないわよ!神経がちょっと麻痺してるから目が開かないだけで───」
必死に弁解する母に、俺は優しさなんだろうとすぐに理解できた。…それと同時に、母が辛い顔をしてるのも。
…もうそこでほぼ確信したよ。俺の目は消えたんだって。俺の片目は潰されたんだって。
でも、母さんの口から聞きたい。
「俺はこのままじゃ、嫌だよ。」
掠れた声。泣きたいという気持ちを堪えて、俺はそう言う。母さんはそれに驚いた顔をして、答えた。
「…………うん、ないよ。…家族みんなが大好きなあんたの目、消えちゃったよ………。」
涙を流しながら、声を震わせながら、肩に力を入れながら、母はそう言葉にした。
そして、たくさん泣いた。片目からしか出ない涙は病室のベッドに少しの間シミとして消えるだけ。それ以外は何もない。
俺に残ったのは、何もない。 無力感も、虚無感も、やる気も───感情も。全てが俺の中から消えたような気がした。ただ呆然と暗闇の中を立っているようで…いくら叫んでも誰も何も来ない。
“父さん!母さん!”
“しにがみ!”
“クロノアさん!”
“トラゾー!”
…いくら叫んでも、俺の声が反響するだけの暗闇の空間に、ただ1人突っ立っているようだった。誰も何もない。だから怖くて、孤独で、寂しい。
───もう、何を考えてもダメな気がして。
「…誰が見つけてくれたの?」
ふと問いかけた俺の質問に、母は動きを止めた。…あまり言いたくないのだろうか。まぁでも、見つけてくれるとしたら先生か、生徒。…でも俺を見てどう思ったんだろうな。やっぱり叫んだ?それとも泣いた?
それとも───
「───トラゾーくんだよ。」
「・・・は?」
何言ってるのか理解できない。わからない。聞こえない。届かない。何?トラゾーが見つけた?どういうこと?意味わかんない。じゃあトラゾーは、片目が潰された俺を見たの?醜くて、血みどろで、死にかけの俺を?
───そう考えたら、一気に思考が止まった。五感も働かなくなって、手足の震えが止まらない。トラゾーが見つけたってことは、俺のことを見て何かは思ったはず。
…でもそれより、俺はそんな自分を見られたくなかった。しにがみの目は綺麗だし、クロノアさんは落ち着くような目をしてて、トラゾーは力強い目をしてるのに……俺だけ片目がないの?
───俺、このままあそこにいていいの?あそこにいて……みんなと普通に過ごせるのか?それに友達なんていつかは関わりがなくなるとか聞くから…あぁ、もうだめだ。
もうあたまがうごかなくて、しんどくて、つらくて、もうなにもかんがえたくない。ごめんね、ごめんね。
こんな俺が友達で、ごめんね。
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