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午後の光が白く差し込む相談室で、少年は椅子に深く腰を沈めていた。背もたれに体を預けたまま、天井をにらむように視線を固定している。


「……何もかも、どうでもいいんだ」


声は、乾いていた。熱も重さもない。ただ、言葉だけが空気をすり抜けた。


遥は机の上に置いたペンを指先で転がしながら、短く息を吐いた。


「どうでもいい、か」


「勉強も、部活も、友達も。親に何言われても、成績落ちても、怒られても……心が動かない。周りが必死に何かしてるのを見ても、俺はただ、どうでもいいって思ってる」


少年はそう言って、笑った。だがそれは笑顔というより、口角が勝手に動いただけの癖に近かった。


「……わかる」遥は呟いた。


「え?」


「俺もそう思ってる。毎朝起きても、学校行っても、家に帰っても。全部どうでもよくなる時がある」


少年の目がわずかに動いた。


「でも……それで生きてて、意味あるのかな」


「意味なんか、ないんじゃない?」


遥はあっさりと言った。


「……ないのか」


「でも、意味がなくても生きてるやつ、いっぱいいるだろ。俺もそう。何もかもどうでもいいのに、それでも腹は減るし、眠くもなる。……意味なんか探さなくても、人はしぶとく生きる」


その言葉に、少年は黙り込んだ。しばらくして、ひとつ息を吐く。


「……なんか、救いになってない気がする」


「俺は、救うつもりで言ってない」


遥は少し笑った。


「じゃあ、なんで」


「同じだって言いたいだけ。同じだってわかると、少しはマシになるだろ」


少年は唇をかみ、俯いた。

――同じ。

それは甘い慰めでも、前向きな励ましでもなかった。けれど、胸の奥で固まっていた冷たさに、ひびを入れるような響きだった。


「……遥は、それでいいの?」


「よくないけど、そうしてる」


「……」


「”どうでもいい”って思いながら、俺はまだ息してる。多分、俺にとってはそれで十分なんだろうな」


窓の外、薄曇りの空に夕日が少しだけにじんでいた。

少年はしばらくその光を見つめ、ようやく口を開いた。


「……俺も、とりあえず息してみる」


「それでいい」遥は短く答えた。


相談室の空気は依然として重かった。けれど、出口に向かう少年の足取りは、入ってきたときよりもわずかにしっかりしていた。


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