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――その頃。
グラディウスでの戦いから、少し時間が経っていた。
デブル城。
かつて魔王が住む場所として恐れられていた城は、今や見る影もなかった。
壁は崩れ。
廊下には瓦礫が散乱し。
天井には大きな穴まで開いている。
そんな城内を、
カチャ……カチャ……
奇妙な音を立てながら歩く者たちがいた。
「……」
骸骨。
人間の肉体を持たず、骨だけの姿で動く兵士。
スカル兵たちだった。
彼らは黙々と瓦礫を運び、壊れた家具を片付け、散らかった床を掃除している。
「そっちは終わったか?」
少し離れた場所から声がする。
「……」
スカル兵がカタカタと顎を動かす。
「分かった。じゃあ次はそっちを頼む」
その中心にいたのはアルドだった。
杖を片手に持ち、崩れた壁へ魔法をかけている。
「……補強」
淡い魔力が壁を包む。
ガラッ。
崩れていた石が浮かび上がり、元の位置へ戻っていく。
「よし……これで一応、崩れはしないだろ」
アルドは額の汗を拭った。
その時。
「――あんた、何やってんの?」
「ん?」
声がした。
アルドが振り返る。
そこに立っていたのは、
セレスティアだった。
「……あれ?」
アルドは少し驚く。
「来たのか?」
「来たけど?」
「いや、もう来ないつもりで出ていったのかと思ったよ」
「私を家出少女みたいに扱わないでくれないかな?」
セレスティアの額に、ピキッと怒りのマークが浮かぶ。
「……」
アルドは無言で彼女を見る。
(あぁ、キレてるキレてる)
「まぁ、そんなことより手伝ってくれよ」
「話を逸らすな」
「ほんと神様にも頼みたかったところなんだ」
「だから話を逸らすなって」
アルドはセレスティアの横を通り過ぎると、崩れた玉座の間を指差した。
「お前の力でさ」
「この城、新築くらい綺麗にできないか?」
セレスティアの目が細くなる。
「……」
「修理なら俺でも何とかできるんだけどさ」
アルドは周囲を見渡す。
「一から全部綺麗にするとなると、さすがに魔力がかかるんだよ」
「そんなことで神様に無駄な力を使わせないでもらえる?」
「無駄って言うなよ。魔王城だぞ?」
「今はただのボロ屋敷でしょうが」
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#恋愛
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「ひどいな」
その横を、
カチャ……カチャ……
スカル兵が通り過ぎる。
両手いっぱいに瓦礫を抱えている。
セレスティアはそれを眺める。
「……」
「なに?」
「いや」
セレスティアは少しだけ目を細めた。
「随分と賑やかになったわね」
アルドも周囲を見る。
スカル兵。
修復途中の城。
そして、まだまだ足りない設備。
確かに。
以前とは少し違う。
アルドは小さく笑った。
「まぁな」
だが。
セレスティアは突然、表情を変えた。
「……そんなことより」
「ん?」
「魔王」
アルドの手が止まる。
セレスティアが意味ありげな笑みを浮かべる。
「面白い情報を掴んだんだけど」
「聞く?」
「……面白い情報?」
「あんたが食いつきそうなやつ」
アルドは杖を肩に乗せる。
「言ってみろよ」
セレスティアは少しだけ間を置いた。
「なるほどね……」
セレスティアから一通り話を聞き終えたアルドは、食事を続けていた。
「……くちゃくちゃ」
「食べながら聞くな」
「いや、腹減ってたから」
「そういうところよ」
セレスティアは呆れたようにため息をつく。
アルドは口の中のものを飲み込む。
「戦争か……」
その言葉を口にした瞬間。
アルドの視線が、どこか遠くへ向いた。
「それで、どうする?」
セレスティアが尋ねる。
「この戦争、介入するの?」
「なんで?」
アルドは素で聞き返した。
「……え?」
「いや、介入するとか何にも考えてなかったんだけど」
「……」
セレスティアの表情が固まる。
アルドは何でもないように続けた。
「つい最近、グラディウスも領地にできたんだぞ?」
「別にすぐ動くこともないでしょ」
「…………」
セレスティアは頭を抱えた。
「やっぱりまだまだね」
「何が?」
「こういうところは、まだあいつの方が詳しいわ」
「ほんとそうですよ」
「…………」
その瞬間。
セレスティアの身体が固まった。
「……え?」
聞き覚えのある声。
確かに。
聞き覚えがある。
「セレスティア様?」
「…………」
セレスティアの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「まさか……」
「ほんとそうですよ」
「どこ!?」
セレスティアが勢いよく振り返る。
右。
誰もいない。
左。
誰もいない。
上。
何もない。
「ここです」
「どこよ!!」
「ここ、ここ」
「だからどこ!!」
「ジジジ……」
その時。
声はアルドの持っていた杖から聞こえてきた。
セレスティアの顔が引きつる。
「……あんた」
アルドは何でもないように杖を見る。
「あぁ、念話だよ」
「誰と?」
「呼んだんだよ」
アルドは杖を軽く掲げる。
「ロビンフットの意見も聞くの、ありだろ?」
「…………」
セレスティアが嫌そうな顔をする。
杖から再び声が響く。
『セレスティア様ーー!!』
『おひさしゅうございます!!』
「――ッ!!」
セレスティアが飛び退く。
気づけば、城の隅まで移動していた。
「近づいてないのに気持ち悪い!!」
『そんなぁ!』
「黙りなさい!!」
アルドはその様子を見ながら、ため息をつく。
「とりあえず、ロビンフット」
『はい、我が主』
「お前に意見を聞きたかったんだ」
『というと?』
アルドは先ほどまでセレスティアと話していた内容を、ロビンへ説明した。
ロストウィルム。
デュラハン。
両国の戦争。
そして。
この戦争に魔王として介入するべきなのか。
一通り説明を終える。
「……ということだ」
アルドは杖を机へ置く。
「お前だったら、この状況どうする?」
少しの沈黙。
やがて。
『なるほど……』
ロビンの声が少しだけ低くなる。
『確かに、この戦争へ介入する術はありますね』
「やっぱり?」
『ただ』
ロビンは言葉を区切った。
『魔王様』
「ん?」
『魔王様が、これからどうするか……』
その声音が変わる。
いつもの軽薄な調子ではない。
『それは、あなた次第になりますね』
アルドの眉が動いた。
「……どういうことだ?」
『魔王様』
ロビンが問いかける。
『あなたは――』
一拍。
『これから、この世界をどうしていきたいですか?』
「…………」
アルドは答えなかった。
セレスティアも。
何も言わない。
デブル城に、静寂が落ちる。
その問いは。
「魔王として何をするのか」ではなかった。
アルド・ヴェインとして、この世界をどうしたいのか。
その答えを。
アルドはまだ、持っていなかった。
コメント
1件
うわああ第34話「役の重み」、めっちゃエモかった〜!!😭💕 アルドが魔王としての立場にまだ悩んでる感じ、すごく伝わってきた。セレスとロビンの掛け合いも相変わらず最高で、特にセレスがロビンの声にビビるシーン、思わず笑っちゃったよw でも最後の「あなた次第」「どうしたいですか?」ってロビンの問いかけ、めっちゃ重い…!アルドがまだ答えを持ってないのもリアルだし、これからの展開が気になりすぎる🥺 次話も絶対読みたくなる終わり方だ〜!!✨