テラーノベル
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城には、アルド一人しかいなかった。
静まり返った玉座の間。
アルドは床に杖を置き、巨大な魔法陣を描いていた。
いつも魔王の姿になる時に使用している魔法陣とは違う。
複雑に絡み合った紋様。
その周囲に、五本の蝋燭を等間隔に置いていく。
「……これでいい」
アルドは杖を掲げる。
パチッ。
一本目の蝋燭に炎が灯る。
続いて二本目。
三本目。
四本目。
そして最後の五本目。
五つの炎が、青白く揺らめいた。
アルドは魔法陣の中心へ立つ。
そして、静かに詠唱を始めた。
「極楽、冥界……」
「次へ行くもの」
「罪に囚われしもの」
「我が望むものよ」
「亡者の魂」
「霊界に残りしもの」
淡々と言葉を重ねていく。
やがて、魔法陣が光り始めた。
アルドは杖を強く握る。
「魔よ!」
声が響く。
「我の力を導き、成してみせろ!」
その瞬間。
ゴォォォォォォ!!
魔法陣の中心から、青白い炎の柱が立ち上がった。
天井へ。
さらにその上へ。
炎は竜巻のように渦を巻きながら巨大化していく。
やがて。
炎の形が変わった。
巨大な身体。
太い腕。
頭部。
そして――
二本の角。
人ならざる巨体が、ゆっくりと形を成していく。
アルドは、その姿を見上げた。
「……やぁ」
そして。
「久しぶりだな」
青白い炎が消える。
そこに浮かんでいたのは――
かつて魔王と呼ばれた存在だった。
ゆっくりと、その目が開く。
赤い瞳。
魔王はアルドを睨みつけた。
「……貴様、何者だ?」
そして自分の身体を見下ろす。
「それに、この姿は……!?」
驚きは一瞬だった。
魔王はすぐに状況を理解した。
「……主が、私を呼び出したということか」
アルドは頷く。
「まぁ、そういうこと」
「何のつもりだ」
魔王の声が低くなる。
「この私が、ただの人間ごときに何故こんなことをしなければならない」
「さっさとこの魔法を解け!」
「そう言われてもなぁ……」
アルドは困ったように頭を掻く。
その時。
「まぁまぁ」
別の声が響いた。
アルドが振り返る。
「誰かと思えば……」
そこにはセレスティアが立っていた。
「〈元〉魔王じゃない」
「……貴様」
魔王の顔が険しくなる。
「なぜ貴様がここにいる……?」
セレスティアは口元を緩める。
「それにしても、随分と可哀想な姿になっちゃったわね」
「貴方の魔王という肩書きも、もう終わりみたいね」
「貴様……!!」
魔王の魔力が膨れ上がる。
だが、セレスティアは平然としていた。
「残念だけど」
セレスティアはアルドを指差す。
「今の魔王は彼よ」
「……」
「貴方はただの凡人」
「……なんだと?」
アルドがため息をつく。
「お前、わざわざ煽りに来たのか?」
「ちょっと様子を見に来ただけ」
セレスティアはアルドへ近づく。
そして耳元で囁いた。
「これで少しは、あいつも言うことを聞くでしょ」
「さっさと話を済ませなさい」
「はいはい」
セレスティアは踵を返す。
そして出口へ向かう。
通り過ぎる瞬間。
魔王へ振り返った。
「私は貴方をいつでも見ているから」
それだけ言い残す。
「……?」
意味深な言葉。
セレスティアはそのまま城を出ていった。
残された二人。
しばらく沈黙が続く。
やがて魔王が口を開いた。
「……貴様が、今の魔王か」
「一応な」
「ただの人間風情が、よくも魔王になれたものだ」
アルドは苦笑する。
「なぁ」
「少し聞きたいことがある」
「同じ魔王としてさ」
魔王は鼻で笑う。
「何を迷う」
「魔王として、この世界を支配する」
「ただ、それだけだ」
「支配ねぇ……」
アルドは玉座へ腰を下ろす。
「俺は支配とか、あんまり興味ないんだよ」
「ただ、ゆったり長く生きたい」
「金にも困らず、美味い飯を食って」
「寿命が来たら死ぬ」
「それでいい」
魔王は黙っていた。
そして。
「……ふ」
小さな笑い声。
「ふふ……」
次第に大きくなる。
「ははははははは!!」
城全体に魔王の笑い声が響いた。
「やはり、人間というものは面白い!」
「そんな考えを持つ者が、魔王だというのか!」
アルドは眉をひそめる。
「変か?」
「いや」
魔王は笑いながら答える。
「むしろ興味深い」
「世界を支配することだけが、魔王の役目ではないのかもしれんな」
「魔王というものも……」
魔王は自分の身体を見る。
「ほんの肩書き程度のものなのかもしれん」
その瞬間。
魔王の身体が徐々に薄くなっていく。
アルドが目を細める。
「……限界か」
「どうやら、そのようだ」
魔王の身体が光の粒へと変わっていく。
「貴様が……我を殺したそうだな」
アルドは黙る。
「これも何かの運命か」
「それとも……」
魔王は一瞬、セレスティアが去っていった方向を見る。
「……あの女の仕業か」
アルドが聞き返す。
「何?」
「魔王よ」
魔王はアルドを見る。
「私とお前は違う」
「お前が魔王として、この世界をどうするのか」
「見ものだな」
身体がさらに消えていく。
もう顔しか残っていない。
そして最後に。
魔王はアルドへ言った。
「魔王よ……」
「……あの女には」
一瞬、赤い瞳が鋭く光る。
「十分……気をつけろ」
その言葉を最後に。
魔王の姿は完全に消えた。
静寂。
アルドは一人、玉座に座ったまま動かなかった。
「……セレスティアに気をつけろ、か」
誰もいない城に。
その呟きだけが残った。
コメント
1件
おお、第39話、読みました。アルドが先代魔王を召喚して対話する展開、めちゃくちゃ面白かったです。「支配」に興味がないアルドのスタンスと、自分を嘲笑いながらも最後には「見ものだ」と言い残す先代魔王の関係性が絶妙だなと。そしてセレスティアの「いつでも見ている」発言、最後の「気をつけろ」の警告……これは確かにただの煽りじゃなくて、何か裏がありそうですね。次回が気になります!
#宵闇怪奇譚
桜城
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ほっかい広産🧂
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