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#勧善懲悪
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翌朝、ンドレスが見た夢の話はまだ誰にも届かないまま、サペたちはテオファイルの文具店に集まっていた。
店の奥は紙と木の匂いがする。棚には大学ノート、封筒、古いインク瓶、もう町のどこにもない柄の便せんが並び、時間だけが少し遅い。
「で、今日は何を掘るの」
エリアが帳場へ肘をつくと、テオファイルは丸眼鏡の奥で目を細めた。
「掘るって言い方は乱暴だねえ。紙は掘るんじゃなく、ほどくんだよ」
「ほどいて何が出るの」
「君たちが今いちばん知りたいものだろうね」
そう言って、テオファイルは店の奥のさらに奥、低い引き戸の中から長い箱を持ってきた。布に包まれたそれを机へ置く動作が、思っていたより慎重で、サペは自然と息をひそめる。
包みをほどくと、現れたのは古い台本だった。
表紙には、手書きの題名。
からくり人形と錬金術師。
ズジが目を丸くする。
「ほんとにあったんだ」
「あるさ。噂だけで残るには、あの舞台は惜しすぎる」
テオファイルは、表紙の角を親指でそっとなでた。
「サペのおじいさんと、箱庭座の舞台職人が一緒に作った代表作だよ。修理屋と舞台屋が組んで、壊れたものは直せるって話を人形劇にした」
サペは台本へ手を伸ばしかけて、少しためらった。
祖父がいた時代のものだ。触れたら、自分の知らない時間まで手に残りそうだった。
「見ていい」
テオファイルが言う。
「君が見ないと、ここで紙のまま腐る」
サペが台本を開くと、最初のページに、見覚えのある癖の字があった。
困りごとは、恥じゃない。
直せるものは直す。直せないものは、いっしょに持つ。
祖父の字だった。
サペの喉が、かすかに鳴る。
エリアが横からのぞきこみ、少しだけ声をやわらげた。
「いいこと書くじゃん」
「……うん」
その時、ページの間から一枚の古いチラシが落ちた。
箱庭座上演、眩しい箱――幼い子どもたちに贈る、光の舞台。
サペたちは顔を見合わせる。
「社名より前に、演目としてあったんだ」
マイナが静かに言った。
誰かが後から奪ったのだ。町の思い出ごと、きらびやかな名前だけを。
テオファイルはうなずいた。
「だから嫌だったんだよ。あの名前が、金勘定の看板になったのは」
台本の最後のページには、小さな書き込みがあった。
目を戻せ。光はそこに宿る。
サペの脳裏に、片目の壊れたからくり人形が浮かぶ。
昨夜ンドレスが見た夢の言葉と同じだとは、まだ誰も知らないまま。