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#勧善懲悪
#勧善懲悪
台本を抱えて文具店を出たあと、サペたちは雨上がり公園の舞台の前に腰を下ろした。昼の光が濡れた板の上でちらちら反射し、昔よりずっと古びているはずなのに、どこかだけは変わっていない。
「覚えてる?」
エリアが舞台を見たまま言った。
「ここで、子ども向けの人形劇やってたの」
サペはうなずく。
「前の方で見すぎて、しょっちゅう人形に話しかけてた」
「それ、今も変わんない」
「うるさい」
エリアが笑った。
その笑い声につられるみたいに、キオノフが紙コップを配り、ピットマンは舞台袖の壊れた箱を見つけて勝手に持ち上げ、トルードに「置け、まだ見る」と怒られる。
「私はね」
ズジがベンチへ座りながら言う。
「ここで見た人形劇のせいで、何でも記録したくなった。あの時の舞台、終わったら消えるのが嫌だったんだと思う」
「俺は野球」
ピットマンが即答する。
「公園の端で勝手にボール投げて、しょっちゅう怒られてた」
「怒ったの、たぶんうちの祖父だ」
サペが言うと、みんな少し笑った。
エリアは足元の小石をつま先で転がした。
「私は絵。ここで見た背景幕がほんとに好きだった。森が森に見えないんだよ。布なのに。なのに、夜になると本物より深く見えた」
「それが今の看板屋の始まり?」
マイナが聞く。
「たぶん」
エリアは肩をすくめた。
「で、始まりをくれた場所を、今あいつらが上書きしようとしてる」
軽く言ったのに、最後だけは声が固かった。
サペは台本の端を指でなぞる。
幼い日のあこがれ。そんな大げさな言葉、口にする柄じゃないと思っていた。けれど実際、今こうして立っている場所の下には、子どものころ目を輝かせていた自分がまだいる。
「戻したいな」
サペがぽつりと言う。
「何を」
エリアが聞く。
「全部は無理でも。少なくとも、ここが誰かの弱みを売る場所じゃないってこと」
しばらく間があってから、エリアは小さくうなずいた。
「じゃ、戻そ。そういうのは、一人じゃなくていい」
その時、公園の隅で遊んでいた子どもが、舞台を指さして母親に聞いた。
「ねえ、ここでまた人形やる?」
母親は困ったように笑う。
「どうだろうねえ」
サペはその声を聞きながら、台本をぎゅっと抱えた。
どうだろう、じゃなくする。
そのために今、昔の紙を開いている。
風が吹き、舞台の端の黒ずんだ幕が、かすかに揺れた。