コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夕方になり、少し離れた位置にある窓から綺麗な夕日が見える。
退院する為に、私は日向さんと一緒に病室を出て、ナースステーションへと向かった。
「色々とありがとうございました」
揃って待っていてくれた担当医のお医者様と看護師の方、そして宮川先生の三人に、日向さんと一緒に頭を下げながらお礼を言う。
「検査結果は脳に異常はなかったけれど、少しでも変化があればすぐに病院に来るんだよ。あと、何もなくても経過を診たいから、絶対に来週また来るように」
心配そうにそう言う担当医の方に、「はい、わかりました」と頷きながら返事をする。
「俺も何かあればすぐ行くから、遠慮なく連絡してくれ」と、宮川先生は日向さんに言っていた。
「悪いな、お前にまで色々と気を遣わせてしまって」
「何度も言うが、本当に気にするな。分野は違うとはいえ、友人の奥さんの事となるとやはり気になるからな。俺の自己満足に付き合っているとでも思っておけ」
「あぁ、わかったよ」
親しげに話す二人を見ていると、日向さんが私の視線に気が付いたのか、「あぁ、コイツとは古い友人なんだよ。ウチにも何度か大きな犬を連れて遊びにも来ていたんだ」
そう、司さんが微笑みながら教えてくれた。
「退院の手続きはもう全て済んでいるし、タクシーも外に待たせてある。さ、行こうか」
私の少ない荷物を手に持ち、日向さんがこちらの方へ手を差し出してきた。その手を素直に取ると、ちょっと強めに握る。役得を存分に堪能しておきたくってした事だったのだけど、日向さんがすごくほっとした表情になった。
「よかった、嫌がられると思っていたからね」
「嫌だなんてそんな…… 」
「行こう。晩御飯の準備とかしないといけないしな」
そう言い、もう一度見送りにと出て来てくれていた方達にペコッと軽く頭を下げると、日向さんはエレベーター前まで行き、ボタンを押してすぐに乗り込む。
「一週間だけ休みがもらえたんだ。本当はもう少し欲しかったんだが…… 万年人手不足の職業だからね、流石にこれ以上は無理だったよ。すまない」
「いえ、返ってなんだがすみません…… 」
(私が怪我なんかしたばかりにこうなっちゃったんだよね?)
なんだか申し訳ない気分になってくる。
「気にしなくていい、俺が君の面倒を看たいだけだから。君を人に任せて仕事をするよりも、傍に居させてもらえる方がずっといい。それに、仕事したって、部屋で倒れてないかと気になって集中出来やしないしな」
「倒れるような怪我じゃないですよ?数針縫っただけで、本当はこんな大げさな包帯頭に巻くほどじゃないんですから」
「そうなのか?そう言えば、健忘症にばかり気を取られていて、全然怪我の状態を君に訊いてなかったな…… すまない」
口元に手をやり、日向さんが黙り込む。
「髪の生え際辺りを数針縫ったそうです。頭だったせいで出血はちょっと多かったみたいですが、縫った後が目立つような場所ではないそうですよ」
「そうなのか、よかった。君の可愛い顔に傷がついたらちょっと悲しいからね」
「ちょっと、なんですか?」
「あぁ。だって、別に顔だけが好きで一緒に居たい訳じゃないからね。顔面を大火傷していたとしても、俺は君から離れない自信があるよ」
優しく微笑みながらそう言い、日向さんがそっと私の肩に触れようとした。だが、その手が肩には触れる事無く下ろされた時、丁度エレベーターのドアが開き、私達は一緒に一階のフロアに降りた。
そして、すぐに病院の正面に待たせていたタクシーまで向かい、私達は日向さんの家へと向かったのだった。