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由天。
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53話 冷却ボックスの置き場所
夕方。
市場から戻った日。
袋の中で、
魚が静かに揺れている。
玄関を抜けて、
家の奥。
パントリーの一角。
普段は、
下の端に置かれている箱。
石と木でできた、
低い冷却ボックス。
今日は、
それを持ち上げて、
棚の手前、
いちばん使いやすい場所へ動かす。
リカのお母さん。
肩までの髪をまとめ、
動きやすい家用の服。
袖は少し短く、
手首がよく動く。
箱のふたを外す。
中に、
冷却石とパキッと冷える保冷剤。
ひんやりした空気が、
足元に落ちる。
魚を包みから出し、
そっと置く。
密閉はしない。
ふたも、
軽く乗せるだけ。
「あとで使うから」
それだけの意味。
リカは、
少し離れたところで見ている。
髪は肩より少し下。
前髪は目にかからない。
制服のまま、
靴下だけ脱いでいる。
冷却ボックスが、
今日は中央にある。
それだけで、
家の中の動線が変わる。
冷やすためじゃない。
悪くならないため。
今は、
使わないだけ。
数時間後には、
また端に戻される。
それも、
分かっている。
冷却ボックスは、
置き場所で役目が変わる。
今日は、
魚の日。
だから、
真ん中。
それが、
この家の普通だった。