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54話 モップの音
朝。
床掃除の日。
廊下の端に、
モップが立てかけられている。
棒はまっすぐ。
持ち手は、
長く使われて少し滑らか。
先の布は、
何度も洗われ、
少し厚みが増している。
リカのお母さん。
肩までの髪をまとめ、
家用の服。
足元は軽く、
動きやすい。
モップを持ち、
床に置く。
押す。
引く。
布が床をなぞる。
シャッ。
シャッ。
一定の音。
機械の音じゃない。
歯車も、
石も反応していない。
音を出しているのは、
腕と、
体重と、
動きだけ。
リカは、
少し離れた場所に立っている。
髪は肩より少し下。
前髪は目にかからない。
制服の袖を折ったまま。
モップの動きを、
目で追う。
拭いた場所は、
すぐには変わらない。
でも、
光の反射がわずかに違う。
汚れは、
見て判断する。
どこまで拭くかは、
決まっていない。
もう一度。
シャッ。
角まで。
もう一度。
シャッ。
リカは、
その音を聞いて思う。
この家で、
勝手に音を出すものはない。
動かしたら、
音が出る。
止めたら、
静かになる。
音の始まりも、
終わりも、
人の手にある。
モップは、
立てかけられる。
床掃除は終わり。
音も、
そこで終わる。
それが、
当たり前の朝だった。
#推理
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