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――王都・首相官邸 通用口。
テックマッチックエージェンシーのロゴが入った魔導浮遊車が停止線に停まった。
青白く光る封印魔方陣が、車内の二人の顔を浮かび上がらせる。
「テックマッチックエージェンシーの者です。システムメンテナンスに参りました。こちらが通行・作業許可書になります」
カザンが低く声を抑え、IDカードを提示した。事前にラッセルが軍部経由で政府警備システムに密かに侵入し、「定期メンテナンス」の名目で行事を登録。さらに通行許可IDの情報を改ざんしていたのだ。
警備室のホログラムには車体番号と職員リストが浮かび、
写真と顔が一致するのを確認した警備兵が頷いた。
「よし、通行を許可する」
封印魔方陣が解け、ゲートが静かに開いた。
浮遊車は音もなく滑り出し、暗い駐車区画へと進んでいく。
「今日だけが好機だ。名前はリストにある。時間は限られている、急ぐぞ」
「軍部でなければ到底できない芸当だな……大佐」
ラッセルはハンドルを握りしめたまま視線を前に据えた。
「リヴァン首相も絡んでいるな。ヴァルク・デリンとの対峙の後、リヴァンに直接連絡をとったが……
『マラーが絡んでいる証拠を見せろ』と語気を強めて返された」
カザンの眉が動く。
「やはり、リヴァン首相も、か……」
「御前会議での態度も不自然だった。マラーだけじゃない。……上層全体に“何か”ある」
ラッセルの声には怒りよりも冷徹な決意が宿っていた。
二人を乗せた浮遊車は官邸地下の冷たい闇へと吸い込まれていった。
二人は地下フロアに降り情報システム室の前に立った。
ヴァルクから奪った官邸IDをかざすと、無機質な認証音と共に扉が静かに開く。
室内では数名の職員が黙々と端末を操作していたが、
二人をただのメンテナンス要員と認識したのか疑う者はいなかった。
ラッセルは指定された作業用端末に腰を下ろし操作を始める。
まずは、スメラの通信ログ。
失踪当日の時刻を入力し、彼女の番号で検索をかけた。
数秒の沈黙の後、画面に並んだ履歴を見た瞬間、二人は息を呑む。
「治安局の報告では、リュカ郊外から家族に一度だけ通話、とされていたが……。実際には……」
「この官邸から、ラッセル大佐……君に、複数回かけている!」
カザンの声が震えた。
「ああ、俺の通信端末にも何度も履歴があった。
そのとき、魔物討伐で取れなかったが、折り返しをかけてもスメラは出なかった」
カザンが画面を凝視する。
「その後、発信記録は、ぷつりと、途絶えているぞ」
ラッセルは奥歯を噛みしめた。
「捜査資料が改ざんされている。……できるのは、官邸の上層権限を持つ者だけだ」
カザンは血の気を失い、唇をかすかに震わせた。
「これは、国家ぐるみの隠蔽だ!」
次に、防犯カメラのデータベースへアクセスした。
ラッセルは防犯システムにスメラの顔写真を入力した。
即座に検索結果が展開され、時系列で並んだ監視映像のコマに赤枠の警告が浮かんだ。
【警告人物】
「スメラが、警告人物に……?」
ラッセルは喉の奥が焼けるような思いを抱え映像をタップした。
次の瞬間、閃光に包まれる映像が再生された。
そこには、失踪の前夜、スメラが警備ドローンに襲撃され必死に逃げ惑う姿が映っていた。
――次の日、朝の官邸廊下。
硬い足取りで歩むスメラの姿。
両腕には分厚い書類束を抱え、何度も背後を気にしている。
その表情には緊張とどこか追い詰められた影が浮かんでいた。
やがて彼女は地下へ続く階段に姿を消しこの情報システム室へと入ってきたのだ。
「この部屋で、何を……」
ラッセルは喉がひりつくような息を呑んだ。
すぐに各端末のログ解析に移る。
瞬く間にデータが流れ赤い警告文字がいくつも浮かび上がった。
「これは、Z-Retroファイルを、王宮専用フォルダに転送した記録だ!
しかし、ファイル転送は途中で途切れ全消去されている」
すぐさま、管理用のログを展開した。
別アカウント、
この部屋の責任者〈ゼム〉によって転送データは消去。
ラッセルの拳が机を打つ。
「Z-Retroファイル。スメラが手に入れた証拠を消去!」
カザンは蒼ざめ、声を潜めた。
「ゼム・グラナ……
彼女はスメラが失踪した日に首相秘書官への異動人事が発令されている。
官報で確認済みだ」
沈黙が落ちた。
その沈黙は偶然ではなく、何者かが、ゼムへ意図的に指示した「消去」の痕跡だった。
「命がけで、国王陛下に告発しょうとしていたのだな……」
ラッセルが呟く。拳が白くなるほど握り締められていた。
カザンが隣で声を張る。
「大佐、まだある! 失踪当日の自室前の映像だ!」
画面にはスメラが部屋を出て行った後、
しばらくして、リヴァンが荒々しく入室する姿。
数分後、再びスメラが戻ってきたがそれが最後の姿だった。
そして。
後に入ってきたのは、マラー秘書官。
しばらく経って、
黒いバイオハザード容器を抱えた護衛モンスターたちが続き、
そのまま黒いボックスを運び出していった。
「この中に……スメラが……!」
ラッセルの声は震え、
映像を見つめる瞳が揺らいだ。
再びカザンが操作し再生を進める。
ゼムが入室後直ぐに、リヴァンとゼムが並んで部屋を後にする姿。
その後、ロボット清掃員が入り、
残されたスメラの私物を無造作にゴミ袋へ放り込んでいった。
その一瞬――。
「待て、……。あれをズームだ」
ラッセルの声に、カザンが画面を拡大する。
壊れた鳩時計の内部に淡く光を放つ小さな結晶が映し出された。
テープで固定された光結晶チップ。ラッセルは息を呑む。
「カザン! やはり、スメラはバックアップを残していた!」
さらに、映像の片隅――
ゴミ袋の横に注射器が転がっている。
「注射器? これで、スメラを殺したのか……」
カザンの声が揺れる。
「違う。軍支給の生体IDチップを埋める注射器だ」
ラッセルは即座に否定し、食い入るように画面を見つめた。
「討伐任務ではこれで自らの生存と居場所を知らせる。
ロットさえ分かれば、スメラの位置を特定できる!」
その目に、確かな光が宿る。
「カザン、拡大して番号を」
すぐさまカザンが端末を操作し、
ラッセルは軍部サーバーへアクセスする。
「駄目だ。文字が潰れていて読めない」
「くっ……!」
拳を握り、奥歯を噛み締めるラッセル。
重苦しい沈黙を破りカザンが低く告げた。
「諦めるのはまだ早い。黒い箱を追え。
あれが鍵だ。大佐、君の友は必ずまだ生きている!」
ラッセルは深く息を吐き低く呟く。
「ああ、諦めはしない。
鳩時計のチップ、生体ID、そして黒い箱……すべて繋がれば、必ずスメラの痕跡がわかる」
二人の決意が、地下システム室の冷たい光に照らされていた。
再び、防犯カメラの追跡をかける。
黒い箱は官邸の裏手へ運ばれやがて廃墟となった旧庁舎の影へと吸い込まれていった。
旧庁舎の映像を倍速再生したが、清掃員らが官邸内のゴミを旧庁舎へ運ぶ姿しか映らず、
黒いボックスが運びだされる様子は映っていなかった。
「カザン、次は旧庁舎に行こう」
ラッセルが低く呟く。
そのとき、カザンが鞄から光結晶チップを取り出した。
編集部から持ち出したものだ。
「大佐……いや、ラッセル。この中に記録を複製しておく」
彼の声は震えていたが、眼差しは鋭く燃えていた。
「これを記事にする。
たとえ、俺が生き残れなくても、後世にこの国の闇の歴史は残る」
カザンは素早くUSBハブに差し込み、通話記録、転送ログ、監視映像の複製を開始。
進捗バーが点滅を始めた。
その小さな光は、まるで彼の使命そのもののように強く瞬いていた。
警告音――。
赤いアラートが端末に点滅し、室内の職員が一斉に顔を上げた。
「認知外のデバイスが検出されました!」
鋭い声が飛ぶ。職員の一人が通報ベルに手を伸ばしかけた。
その瞬間。
「おっと、すみません!」
カザンが身を乗り出した。
「セキュリティーチェックのために、わが社の端末を任意で挿入しました。
正常に拒否されたので安心しましたよ。
次からは、事前に通知しますので、今回だけはご容赦頂ければと思います。
皆さまには、大変お騒がせ致しまして、申し訳ございませんでした」
深々と頭を垂れ言葉の流れは自然で、まるで正規の監査業務の一環に見える。
職員はわずかに眉をひそめたが、通報ベルから手を離した。
「……次回からは注意してください」
「もちろんです」
カザンが笑みを返した。
その裏で、進捗バーは、静かに100%を示していた。
ラッセルは視線を逸らさず、カザンがチップを素早く抜き取るのを確認した。
それ以降、二人は互いに目を合わせず、ただ淡々と作業を続けるふりをしながら、
背筋に冷たい汗を流し、軍から持ち出した特殊なプログラムをインストールさせ、
閲覧履歴をファイル容量メンテナンスと書き換え、痕跡を残さないように部屋を出た。
コメント
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**美月ゆめか🌸の感想** うわあああ第17話も熱すぎる!!🥺🔥 国家ぐるみの隠蔽って...リヴァン首相もマラー秘書官も関わってるの、ヤバすぎる😭💦 でもラッセルとカザンの連携がカッコよくて泣ける…「諦めない」って言葉にグッときたよ! 鳩時計のチップと生体ID、そして黒い箱—スメラは確かに生きてる証拠を残してたんだね…!カザンが「後世に闇を残す」って記事にする覚悟、マジでジャーナリストとしてかっこよすぎる…次回、旧庁舎がどうなるか気になって眠れない😇💕