第19話:大和の文化
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、淡い水色のパーカーに灰色のハーフパンツ。足元は少し泥のついたスニーカーで、机の上にあごを乗せるようにしてカメラを見上げていた。
「ねぇミウおねえちゃん……“大和の文化”ってニュースでやってたんだけど、ほんとに新しいのがいっぱいできてるのかな」
隣に座るミウは、薄紫のワンピースに白に近いクリーム色のカーディガン。髪は後ろでひとつに束ね、銀のイヤリングを揺らしていた。
ふんわりと笑って、声を落とす。
「え〜♡ もちろんだよぉ。だって“大和国”になって、暮らしも歌もお祭りも、ぜんぶ未来に合わせて変わったんだもん♡」
コメント欄には「大和文化最高!」「日本より安心」「未来を感じる」の言葉が並ぶ。
文化の変容
街のスクリーンには「大和国文化祭」の映像が流れていた。
学校では子どもたちが「ヤマト歌」を合唱。昔の童謡や唱歌は消え、すべて「未来」「安心」をテーマにした新曲に置き換わっていた。
市場には「ヤマト模様」の服が並ぶ。赤い線と水色の波を組み合わせた幾何学模様が“伝統柄”として宣伝されている。
正月や盆踊りは姿を消し、「統合の日」「拡張祭」など、大和国の歴史にちなんだ祝日イベントが広場で催されていた。
漫画や映画のキャラクターも「大和国のヒーロー」として再編集され、国旗を背に笑う姿がポスターを飾っていた。
生活に根づく
コンビニのレジ横には「ヤマトスイーツ」。
どら焼きや団子の包装には「大和国認証マーク」が印刷され、味よりも“安心ブランド”が売りになっていた。
カフェでは「ヤマトラテ」が人気。泡の模様に小さく赤い地図を浮かべるのが定番化していた。
子どもたちは学校の帰りに「サイバー領土ツアー」にログインし、仮想空間の寺院や城を見学。
「これが本物の歴史だよ」と先生は笑顔で教える。
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろは水色のパーカーの袖を握りしめ、少し困った顔でつぶやいた。
「ぼく……ただ“ほんとに文化があるのかな”って思っただけなのに、もう歌も服もお祭りも、みんな“大和”って名前になっちゃった」
ミウは銀のイヤリングを指で軽く揺らし、ふんわりと微笑んだ。
「え〜♡ でもそれって、未来を生きてるってことだよねぇ。
新しい文化が生まれるのは、みんなの“安心したい気持ち”が集まった証拠なんだもん♡」
コメント欄は「ありがとう」「大和文化こそ本物」「未来の伝統!」で埋め尽くされた。
結末
暗い部屋で、緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**は新しいアニメ映像を編集中だった。
画面には、はごろも党の旗を背負った主人公が笑顔で「未来」を叫ぶシーン。
Zは低く笑った。
「文化はもっとも甘い鎖だ。
歌も祭りも模様も――“大和国のもの”と言えば、人は抵抗なく受け入れる」







