テラーノベル
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「ど、どうして住所を知ったのかはわからないけれど、その……きっと彼女、僕の会社をハッキングしたんだよ! えっと、彼女の家は金持ちだし、そういう専門の業者を雇ったのかも……」
「会社をハッキングして、あなたの家の住所を知ったの?」
ご都合主義の脚本家でもそんなこと書かないって。
「いや……えっと……誰かに担がれたんだと思う」
「……誰かに担がれた? ふふ、面白い脚本ね。でもね涼二、三流の脚本家ほど、読者がすぐに見破るような安っぽい嘘をつくのよ」
私はソファの背もたれに深く体を預け、逃げ場を探して泳ぐ彼の瞳をじっと射抜いた。
「いい? さっき彼女、こう言ったわ。『置き去りにする男なんか、こっちから願い下げだよ』って。ねえ、涼二。あなたは先週の木曜日、急な仕事が入ったって言って、夜遅くに帰ってきたわよね? なにをしていたの?」
「それは……その……接待で店に行って……」
「どこの店?」
「そ、それは……」
「今調べたら、こんなSNSが出てきたんだけど」
私は理咲の表側のSNSを見せた。
「彼女の名前で検索したら出て来たわ。ここに映っている男性、あなたにそっくりね? これ、そっくりさんなの?」
青ざめた顔で私を見ている涼二。ここから追い詰めていくわよ。
「どうなの?」
「そ、そっくりさん……かなぁ……」
「じゃあ、次の質問に答えてね。今、あなたの手首にある時計と、このSNSの中の彼の腕時計、傷のつき方までそっくりなのはどうしてかしら? まさか時計までそっくりさんなんて言わないよね?」
笑顔で言うと、更に涼二が泣きそうな顔になる。
「答えてよ」
「っ……!」
涼二の喉が引き攣ったように鳴った。
「それにね、涼二。さっき理咲さんが叫んでいた、『秘密をバラす』って、どういうことなの? 警察はこれから、彼女の所持品をすべて調べるわ。そこからあなたの連絡先や、これまでのやり取りが全部出てきたら……。彼女、不法侵入の罪を軽くするために、喜んであなたのことを『共犯』か『詐欺の主犯』として語るんじゃないかしら?」
これ以上黙っていると、とんでもなくマズいことになると匂わせる。
「投資がどうとか言っていたけれど、あなたに関係あるの? 神原新次郎ってあなたの知り合いなの? それとも共犯?」
「共犯……!? 違う、僕は何も知らないんだ! ただ、彼女に誘われただけなんだ!」
「誘われたってなにを? 不倫? それとも投資?」
私は立ち上がり、壁に追い詰められた涼二の目の前で、声を一段と低く沈めた。
「正直に言いなさい、涼二。今ここで自白して、私に許しを請うか。それとも、明日、私が警察と彼女の会社に『夫も投資詐欺に関与しているかもしれない』と通報して、すべてを白日の下に晒されるか。……どちらが、あなたの『脚本家としての未来』にとっていいかしら?」
涼二の膝が、目に見えてガクガクと震え始めた。
恐怖、罪悪感、そしてバレているという絶望。三流のプライドが、音を立てて崩壊していく。
「……すまない。……沙耶、本当に……すまなかった!!」
涼二が、ドサリと床に膝をついた。額をフローリングに叩きつけ、絞り出すような声で泣き始める。
「浮気を……していたんだ。理咲とは、その……仕事で知り合って、つい、年下で甘え上手だったから、関係を持ってしまったんだ……」
やった!
遂に浮気を認めさせたわ!
握りこぶしを作りたい気持ちを必死に押さえ、「それで?」と冷ややかに聞いた。
「浮気をしたことは申しわけない。魔が差してしまっただけだ! 僕には沙耶だけだから!!」
「今さら虫が良すぎると思わない? そんな言葉、誰が信じるのよ? それに、私だけとか言っておきながら……ひどいよ涼二」
嘘でも泣いておいたほうがいいと思い、ぽろぽろと涙を零した。
「警察行こうよ涼二。今なら間に合うと思う」
「は? 警察なんて、どうして……」
「投資詐欺していたんでしょ? 愛人からいくら貢がせたの?」
「違うよっ!!」
涼二は必死に訴えてくる。
「ほんとだって。投資のことは知らないんだ! 頼む、沙耶! 警察にだけは言わないで! 今日、辞表も出したんだ、今ここで脚本が書けなくなったら、僕は……!!」
「じゃあ、彼女との関係を洗いざらい話して。そこから考えるから」
涼二が目を泳がせながら、真実を語った。
理咲と浮気をしていたこと、いつから、どういう経緯で関係に至ったのか。
「スマートフォン見せて」
「え……なんで……」
「ほかにも浮気しているでしょ!! ぜんぶ見せなさい!!」
スマートフォンのロックを解除させた。GPSアプリはちゃんと動いているからオーケーね。盗聴アプリも仕込んでおこう。
「この証拠は共有させてもらうから」
この家では、私が仕事で使うからスマートフォンやノートパソコンのデータを簡単に保存できるように、すべて共有フォルダにサーバーを通じてデータを残せるようにしてある。
これ幸いと、涼二のスマートフォンのデータを片っ端からデータ共有にかけた。あとでじっくり見てやろう。複数の女と関係していることを、これで証明できるわ。
「……こんなやり取りしていたのね」
あくまでも表面のかわいらしいメッセージアプリでのやり取りを表示させ、『好きだよ』とか『愛しているよ』とか『嫁にはもう魅力ないからりさりさだけだよ』とか、そういう類のよくあるメッセージを見せた。
「ご……ごめんなさい……」
ふふ。涼二。今、私に捨てられるわけにはいかないよね?
もう辞表出しちゃったもんね?
「沙耶……ほんとにごめん。魔が差しただけで……心から愛しているのは、君だけなんだ!」
さむ。
誰がそんな嘘っぱちの戯言、信じるものですか。
「もういいわ。離婚しましょう」
私は冷めた目で、床にひれ伏す夫を見下ろした。
「えっ……」
「だって理咲さんの方がいいんでしょ?」
「それは、言葉のアヤってやつだよ! ほら、愛人を気持ちよくさせるためのテクニックというか……本心じゃない! 信じて!!」
なにが『愛人を気持ちよくさせるためのテクニック』よ。喋れば喋るほど馬鹿っぷりがぬぐえない。
「でも、私、傷ついた。それに、浮気したら離婚だって前に言ったよね?」
「い、言ったけど……でも、別れたくないんだ! チャンスをくれ!」
「二度目はないわよ?」
「わかった。約束する!」
「じゃあ、書類用意するから、これにサインして」
私は念書を早速作り、プリントアウトして涼二の前に置いた。
「次に浮気したら、慰謝料払って離婚するわよ。いいわね?」
「は……はい……」
こうして私は、次に浮気したら慰謝料1千万円払って離婚する、という念書を手に入れた。
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コメント
1件
えええ、沙耶さんかっこよすぎる!! 涼二の嘘がどんどんボロボロ崩れてく感じ、めっちゃスカッとしましたわ。 特に「ご都合主義の脚本家でもそんなこと書かない」って台詞、刺さったわ〜。 SNSの時計の傷ネタとかロジックで詰めるの好き。 念書取って離婚準備も着々やし、次どう動くのかマジで楽しみ🔥