空には三日月がぼんやりと薄雲に隠されている。
その薄闇を羽ばたく影が5つ。
そんなものには誰も気づかない。
その影は羽ばたき滑空し地上にある屋敷を目掛けて落下した。
コンドルの魔獣は屋敷を急襲し、屋根を貫いて混乱を引き起こした。
「やっぱり僕は隠密向きじゃないんだよね。あの2人と違って実体を消すなんて芸当できないんだから」
目の前にはこの屋敷の護衛か。既に剣を抜いて切り掛かって来ている。
「判断が早い。けど遅いね」
エミールは取り出した鞭を振るい、護衛を弾き飛ばした。
「さて、奴隷は助ける。貴族じゃないひとは応相談。貴族は──死ね」
天井に穴の空いた廊下を渡りながら屋敷を探索する。
貴族を襲うのは彼が操る魔獣たちもやってくれているから、保護対象を見つけておくのが優先だ。
角を曲がった先から護衛たちがくる。
「遅い」
まだ10mはあるその距離を壁も床も天井もズタズタにしながら不規則な軌道で鞭が襲い薙ぎ払った。
「やあ、やっぱり入れ食いみたいだね」
先日の事件に謎の集団失踪と続く貴族邸の異変に即対応を命ぜられている国軍兵士達は、先ほどから何人もこの屋敷の主人の部屋を訪れている。
「見れば分かるんだよ。どっち側なのかは。まあ、ここで奴隷や貧民街の連中を連れてくる訳もないから今のところ10割であっち側なんだけどね」
誰もが「貴族邸襲撃さる」との急報を受けてそれぞれやってきているはずなのだが、ここでその兵士は目撃する。
「た……たす、けっ、うわあぁぁっ!」
床に転がされて這いつくばっていた1人の男が、仲間の到着に助けを求めたとき、その足首に鞭が巻きつき身体を宙にやった。
その先にあったのは、巨大なコンドルの魔獣の嘴。5体の魔獣がおのおのに啄んで男を食べている。
「大丈夫。この子たちは“待て”が分かるから。君たちが振り返って逃げ出さない限りは襲い掛かりはしないよ」
確かに待っている。羽根は畳んで大人しく座って──与えられたエサを啄むだけだ。
主人はその魔獣たちの頭上に括られており、まだ生きている。先ほどから何人がそうして食べられるのを見せられてきただろうか。もはや声も出ない。
待てが出来るから。そこに括られているうちは生かされている。生きているうちは助けが来てしまう。貴族たちの持つ生存確認の魔道具というのが、特定の受信機に知らせているからだ。
「夜はまだ長いんだし。さあ、ボーナスステージを続けよう」
エミールは可愛い顔で笑みを浮かべ、やってくるエサを魔獣たちに与えていった。
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