王都の混乱は瞬く間に広がっていった。立て続けに起こる襲撃事件はすでに平民街や貧民街に住むものも知るところとなった。
かと言って耳にした平民も貧民も危機とは感じていない。
むしろいつからか始まった貴族の横暴、いまだ解決しない王国周辺の魔獣の脅威に不満を持っていたのだからザマアミロとさえ思っている。
「まあ、色々作るよねえ、初代の人たち。なんで生きてるか死んでるのか知らせる魔道具なんてあるのかなぁ」
僕は貴族がそういうものを持っているという情報を、バレッタの起こした失踪事件の捜査をする兵士たちの会話で知ることになったけど、その存在意義が分からない。
ちなみに失踪した貴族たちの魔道具からは何の信号も届かなくなっている。その場合は死亡……なのかな?
「貴族同士の安否確認のつもりなんでしょう。むしろ転移者たちが作ったものが、子孫の彼らの数だけあることのほうが不思議と思いますわ」
この部屋にはいま僕とバレッタの2人がいる。
バレッタが言いたいのは初代の魔道具を作れる者は居ないはずなのに、という事だろう。
「貴族街はもうゴーストタウン。門は閉ざされたまま。みんな怯えてお城の中、か」
僕は現状を確認するように呟く。
「キスミ様が到着されたら開始です」
「そう。僕も準備しとかなきゃ」
僕はそう言って座ったまま天井を見上げて目を閉じた。
「ところでひとつ教えて欲しいんだ。バレッタ、君は何者なんだい?」
「私はキスミ様の従者。それだけではいけませんか?」
「いや……君は僕とは違うんだなって。僕はキスミさんに助けられた。そして僕らを虐げ続けてきた貴族達への復讐がしたくて一緒にいるんだ。でも君はただキスミさんに付いているだけなんだね」
目を閉じた僕にはバレッタの顔も見えないけれど、そこになんの表情も浮かべてないことはなんとなく分かる。
「共に行動し、同じ終着点を求めています。エミールの害にはなりませんよ」
「ありがとう。分かってても少し気になっただけなんだ。おやすみ」
僕は、“バレッタの異様な存在が”とは言わなかった。
「待たせたな。エミール起きろ」
「……ああ。キスミさん。おはよう」
「まだ寝ているな、まあいい」
深夜。この部屋には3人だけで、外にも物音はしていない。
「キスミ様、もう終えられたので?」
「ああ、外に逃げていた残党は全て始末してきた」
「じゃあここにいる貴族を全員仕留めれば、もう転移者の血族は無くなるんだね」
僕は改めて確かめる。
「ああ、俺を除けば、な」
キスミさんは僕をを見据えて自身もそうであると告げる。
僕もまた、キスミさんから目を逸らさず視線を受け止めた。
「キスミさんは別だよ。むしろホビットの僕を助け出して、奴らに報いを与えてくれる……神の遣いみたいなヒトだよ」
僕のこれは本心だ。もし僕があの時、自力で逃げ出していたとしても、復讐など出来なかっただろう。
これまで3人ともが圧倒的な虐殺を行ってはきていたけど、その相手も実際には弱い訳じゃない。
この王国だけでなく、どこの兵士も冒険者も一般人さえも魔術を使う。使えば使うほど、実践を重ねれば重なるほどにそれは強くなる。
王国を他国や魔獣の脅威から守り続ける兵士、貴族の護衛を務めるのはそういった兵士の中から良いものが雇われ、冒険者はさらに強く危険な魔獣にも挑む。
いずれもこの世界で強者の部類に入るだろう。
本来ならばとてもではないけど非力な僕がどうにか出来る相手じゃない。
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