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第11話:レンアイトーナメント開催
朝のHR(ホームルーム)。
担任の声がいつになく明るい調子だった。
「えー、本日連絡があります! 本校は、第1回全国レンアイトーナメントの予選会場に選ばれました!」
その瞬間、教室内がどよめく。
「マジで!?」「全国!?」「予選って、ウチの学校でできんの!?」
スマホを取り出す生徒たちの指先が一斉に動く。
画面には、レンアイCARD株式会社の特設サイトが表示されていた。
【全国レンアイトーナメント開催決定】
演出・感情・技術を競う、“恋の一手”の頂点を決める祭典。
予選テーマ:「本気と演出のあいだ」
勝者には《運命の導き》カード(大会限定ウルトラレア)進呈
「……まるで、スポーツ大会……」
天野ミオは、制服の袖を指で握りながらつぶやいた。
彼女の前髪は少し伸び、今日も片目をかくしている。
だが、クラスメイトたちは皆、浮足立っていた。
「何組む?」「演出どうする?」「台詞、考えてきた?」「恋人認証は強いよな!」
“恋愛演出”が、“勝敗のある競技”として扱われる。
それが、この大会のコンセプトだった。
教室の後ろでは、男子が真剣にカードを並べている。
《偶然の重なり》《感情補完》《タイミング強化》──
どれも、戦略として組み合わせられる“恋の道具”。
大石リノは鏡を見ながらリップを直し、ミオに声をかけた。
「ミオも出ようよ! あの《再定義》あるんでしょ? 絶対ウケるって」
「……でも、私……演出っていうか、本当に“誰かを好き”じゃないと……」
「え、それもいいじゃん! “本物の恋”ってストーリー、めっちゃバズるし」
リノの笑顔は無邪気で、そこに悪意はない。
だけど、ミオはどこかで“自分の恋が消費される音”を感じていた。
昼休み。校内の壁には、早くも大会予選のポスターが貼られていた。
「演出は、感情のかたち。」
「あなたの一手が、誰かの心を動かす。」
主催:レンアイCARD株式会社
その下には、モデルとして笑顔で写る木元楓の姿。
えんじ色のスーツと整えられた髪、そして完璧な角度で構えた《告白カード》。
大山トキヤは、そのポスターを見て言った。
「……“恋を戦わせる”とか、いつからそんな時代になったんだろうな」
今日はカーディガンを着ておらず、白シャツに黒のスラックスだけ。
どこか、怒りというより“哀しみ”を湛えた表情だった。
「でも、参加しないと“恋してない”って思われるようになってきてる。……そういう空気が、怖い」
ミオの言葉に、トキヤは静かに頷いた。
「演出しない恋に、居場所があるなら、まだマシだけどな」
その言葉が、ミオの胸に深く残った。
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