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昼休み、教室の隅で弁当を広げようとしたときだった。
「遥、ちょっと手伝って」
軽い声。けれど、言われた瞬間、胸の奥が固くなる。断ったら、何を言われるかわかっている。
彼らが指差したのは、棚の上に積まれた段ボール。
「これ、全部職員室まで運んで。あ、急ぎで」
教科書が詰まっているらしく、持ち上げるとずっしり腕に沈む。
「おまえ、見た目のわりに力あるじゃん」
笑い交じりの声。昔から、声や仕草を真似されたり、髪型をいじられたり、「男なの?女なの?」と笑われてきた。
今日はそれを口に出されなかっただけ、まだマシかもしれない。
廊下を歩くとき、わざと人の波を作られて、すれ違いざまに肩をぶつけられる。
「ごめーん、急いでるから」
謝りながら笑っている顔が、まるで見下ろすようだ。
でも俺は、笑い返す。仕事を頼まれたのだから、ちゃんとやり遂げないと。
職員室まで三往復。息が上がっても、水は飲まずに戻る。
次は別のプリントの仕分け。紙で指が切れても、声を出さない。
「遥、こっちのもお願い。あ、ミスしないでね」
軽い調子で重ねられる作業。終わらない。昼休みの時間はとっくに過ぎていた。
「ありがと。やっぱ便利だな、遥って」
笑顔に見えるその言葉が、なぜか胸にひどく沈んでいく。
俺が役に立つのは、こういうときだけだ。
そう思いながら、机に戻ると、もう誰もいなかった。