涼平は詩帆の言葉を聞いて信じられない思いでいっぱいだった。
詩帆は仕事も出来るし絵もプロ並み。
スタイルが良く癒し系の美人なので、これまで相当モテて来たのだろうと思っていた。
その詩帆が今まで特定の男性と付き合った事がないと言ったのだ。
これを聞いて驚かない訳がない。
それからしばらく涼平は何かを考えている様子だった。
そして次の瞬間こう言った。
「詩帆ちゃん、良かったら俺と付き合ってみないか?」
詩帆はびっくりして、飲みかけのワインをこぼしそうになる。
「えっ?」
詩帆が驚いた顔をしているのを見て、涼平はこう説明した。
「俺もね、もう六年も恋をしていないんだ。俺達って似てるよね? ずっと恋をしてこなかった者同士。だから俺達が付き合っ
たら詩帆ちゃんは恋の練習になるし、俺は恋のリハビリになる。いい考えだと思わないか? どうかな?」
涼平は真面目な顔で言った。
その言葉が本気だという事は詩帆にもわかった。
しかし、その内容がイマイチピンと来なかった詩帆はあえて聞き返す。
「それってドラマとかでよくある疑似恋愛的な?」
それを聞いた涼平は慌てて言った。
「疑似恋愛じゃないよ、ちゃんとした恋愛だ。でも、そうだな…なんていうかゆっくりじっくり育んでいく感じの恋愛かな。お
互いに急がず無理せずっていう感じ? うーん、なんか上手く表現できないけれど…」
涼平の説明にさらに困惑している詩帆を見て、涼平は続ける。
「俺は、詩帆ちゃんが嫌がる事は絶対にしないと約束するし、詩帆ちゃんを傷つける事もしないと誓う。だから恋愛に臆病にな
っている者同士、ゆっくりイチから始めてみないか?」
涼平は詩帆の目をまっすぐに見つめて言った。
そこで詩帆は気になっていたことを思い切って涼平に聞いてみる事にした。
「さっき川内さんが仰っていた菜々子さんという方は?」
詩帆の言葉に涼平は一瞬驚いた顔をしたが、その後フーッと息を吐くと言った。
「菜々子は六年前まで付き合っていた女性で婚約者だ。でも六年前に交通事故で亡くなって今はもういないんだよ」
涼平は言い終えると真っ暗な夜空を見上げた。
詩帆はその時「事故で恋人を亡くしたサーファー」が涼平の事だったのだとわかる。
「そうだったのですね…」
なんと言葉をかけていいかもわからずにそんな言葉しか言えなかった。
そして詩帆も夜空を見上げる。
恋人を事故で失い恋が出来なくなった男と、人の心が分かり過ぎて恋が出来ない女が、あえて恋愛をしてみる。
それもいいかもしれない…詩帆はそう思った。
そして先ほど涼平が言っていた『ゆっくりじっくり育む』という言葉が強く印象に残っている。
そんな恋愛が出来るのならばしてみたい……素直にそう思った。
詩帆はずっと今の自分を変えたいと思っていた。そして何かきっかけさえあれば、変われるような気がしていた。
今がその時かもしれない。
そこで詩帆は、涼平をまっすぐに見つめて言った。
「私でよければ、よろしくお願いします」
詩帆からOKの返事をもらえた涼平は、みるみる笑顔になる。
先ほどまでの緊張した顔が一変する。
「ありがとう!」
その時、菊田が庭へ続く扉を開けて二人に声をかけた。
「おーい、お二人さん! 皆集まったようだから、そろそろおいで」
菊谷呼ばれた二人は家の中へ戻った。
二人がリビングに戻ると加納が来ていた。
加納は涼平と詩帆を見つけると、
「よっ! お二人さん! 庭で楽しんでいたようだね」
加納は笑顔でからかうように言うと、今度は詩帆に向かって言った。
「詩帆ちゃんこんばんは。妻の早紀です。詩帆ちゃんよりは少し年上かな?」
加納は隣にいた妻を詩帆に紹介した。
加納の妻の早紀は、肌の白い清楚な美人でとても優しそうな女性だった。
「初めまして早紀です。今日は詩帆ちゃんにお会いできるのを楽しみにしていました」
早紀はニッコリと微笑む。
「初めまして、江藤詩帆です」
詩帆もニッコリと微笑み返す。
そこからは女性同士のお喋りが始まった。
早紀は詩帆が絵を描いている事を知っているようで、是非その絵が見たいわと言った。
詩帆は絵の写真を撮ってあるので見ますか? と早紀に話し、二人はソファーへ移動して並んで座った。
その場に残った加納は、涼平に向かって言った。
「なんか、外でいい雰囲気だったじゃないか!」
「はい…あの、俺達付き合ってみる事にしました」
加納は驚きのあまり一瞬言葉を失ったようだが、すぐに笑顔で言った。
「そうかそうか! お前も漸くか! それは良かったな」
加納は喜びのあまり涼平の背中をバシッと叩く。
涼平は思わず、
「イテーッ!」
と叫んだ。
そんな涼平に、加納はただただニコニコして微笑むだけだった。
そんな二人の元へ佐野がやって来て言った。
「涼平さんの女友達はどの子ですかー? 早く紹介してくださいよーっ!」
そんな佐野に向かって涼平と加納が同時に言った。
「「オマエ、絶対に手を出すなよ!!!」」
あまりにも凄い迫力で言われた佐野は、キョトンとした顔で二人の顔を見比べていた。
その頃、詩帆は早紀と話が盛り上がっていた。
詩帆が携帯で撮った絵を見せると、早紀はページをめくる度に「素敵!」と声を上げる。
全てを見終えると、詩帆ちゃんはプロなのねーと言ったので、詩帆は慌てて否定する。
将来は絵で生計が立てられればいいなーと夢見てはいるけれど、実現するかどうかは謎ですと言うと、
早紀は応援するわと言ってくれた。
早紀は三十歳で、幼稚園に通う五歳の女の子がいると言った。
今日は実家に娘を預けて来たので、少し遅れたらしい。娘の名前は更紗ちゃんという可愛らしい名前だった。
「早紀さんはサーフィンはやらないのですか?」
「私はサーファーじゃないのよ」
「じゃあご主人とはどこで知り合ったのですか?」
「毎年春に海で行なわれるイベントで知り合ったのよ」
早紀はそう言ってフフッと笑った。
毎年行われるそのイベントでは、フラダンスやバンドの演奏、模擬店やバザーなど様々な催しが開催される。
早紀は手芸のハワインキルトをやっているのでバザーにその作品を出品していてそこで加納と知り合ったと言った。
「海での出会いなんて素敵ですね」
「そうね。まさか私もサーファーと結婚するとは思っていなかったから自分でも意外だったわ」
早紀は笑いながら言うと続けた。
「ほらサーファーっていえば、それまでは遊び人っていうイメージしかなかったの。でも実際付き合ってみたら、普通の人より
も真面目でびっくりしちゃった。サーファーってね、意外と硬派な人が多いのよ。彼らは自然を愛し海を愛しているでしょう?
だから意外と家族を大事にする人が多いのよ」
詩帆は早紀が言っている意味がなんとなくわかるような気がした。
そこへ美奈子がやって来て二人の話しに加わった。
早速詩帆は早紀に美奈子を紹介する。
すると美奈子は早紀が毎年参加しているイベントへ、フラダンスのダンサーとして何度も出演していると言った。
そこから二人はすぐに意気投合する。
そして三人は和気あいあいと会話を続けた。
あまりにも三人でのお喋りが楽しかったので、今度三人でランチしましょうという話にまでなった。
この日詩帆に、また新たな海辺での友達が増えた。
コメント
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詩帆ちゃん🩷涼平さん💏お付き合いスタートおめでとう㊗️ 詩帆ちゃん、ゆっくり穏やかにお互いを知りながら愛を育む❤️涼平さんとならきっとできるよ✨
涼平さんと詩帆ちゃん、本当に良かった....💖✨ 素敵な仲間たち、海や美しい自然に囲まれながら🌊 ゆっくり ゆっくり お互いを分かり合い、愛を育んでいけますように🙏🍀