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ちゃ
2話▶︎響き渡るアオノオト / side勇斗
あいつは、分かりやすいくせに、何も言わなかった。 ——いや、言えなかったのか。
最初に気づいたのは、いつだったっけ。
たぶん、あいつがまだ一年の頃。
やけに俺のプレーを目で追ってくると思ったら、目が合った瞬間に逸らす。
褒めれば露骨に嬉しそうな顔をして、でも次の瞬間には無理やり真面目な顔に戻る。
そんなの、分からない方が無理だろ。
「ほんと、不器用だな。」誰にも聞こえないくらいの声で、そう呟いたことがある。
だけど少しだけ——期待した。
もしあいつが、ちゃんと踏み込んできたら、 俺はどうなるんだろうって。
ま、結局、期待は空振りに終わったんだけど。
あいつはずっと“いい後輩”のままで、俺もずっと“いい先輩”のままだった。
それでよかったんだと思う。そういうことにしておかないと、たぶんどこかで壊れてただろうし。
三年になって、引退が見えてきた頃。
あいつが少しだけ、変わった。
いや、変わったっていうより——隠しきれなくなってきた、って方が近い。
ふとした時に、言いかけてやめる。
何かを飲み込むみたいに、黙る。
そのたびに、分かってしまう。
(ああ、今の、たぶん——)
気づかないふりをした。
気づいてない顔で、いつも通り接した。
それが一番、正しいと思ったから。
あいつのためにも。
自分のためにも。
「お前とやるの、好きだった」
引退試合の後、気づけばそんなことを言っていた。
あれは本音だった、想いの全てじゃないだけで。
それに、好き”だった”じゃなくて。
好き”だ”なんだよ、今も。
そんな言葉は喉元まで出かかって、結局消えていった。
あいつが、あの時何を言おうとしてたのかも、分かってた。 分かってて、待たなかった。
待ってしまったら、きっと引き返せなくなるから。
「ほら、行くぞ」
あえて、いつも通りの声を出す。
あいつは、結局何も言わなかった。
言わせなかったのは、俺だけど。
グラウンドを離れても、振り返らなかった。
振り返ったら、たぶん全部終わる気がした。
終わる?いや、始まってしまうのか。
どっちにしても、あの場所には戻れない。
あいつと並んでボールを追いかけてた時間にも。
何も言わないまま、全部分かり合ってるみたいだったあの距離にも。
「……ほんと、不器用」
今度は、少しだけ笑って言った。
自分に向けてか、あいつに向けてか、もう分からない。ただ一つだけ、はっきりしてることがある。
あの時、もしどっちかが一歩踏み出してたら。
——きっと、違う未来もあった。
でも、それを選ばなかったのは。
俺たちだ。
サッカー部にしては白すぎる肌も、男にしては折れそうなほどの華奢な体躯も、笑った時に覗くキレイに並んだ歯列も、全てが今もまだ好きなのに。
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