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◆ 王城・正面広場
侵略2日目。
朝もやの中、王都の中心部にそびえ立つ王城が、
威厳を保ったまま静かに佇んでいる。
だが、その正面では──
「楽しいねー!」
小娘が遠足気分のようだ。
ふわふわと宙に浮かんで、
王城の装飾を眺めながら手をひらひらと振っている。
「あーエスト様?
どこから攻撃されるか分からないからバリア張っときなさい?」
私は腰に手を当てて、のんびりと言った。
「あーいよ!」
そう返事をすると同時に、
エスト様の周りに淡い光のバリアが張られた。
きらきらと光る魔法陣が回転しながら、小娘を包み込む。
「サクラ殿……
本当にこれで王都を制圧できるんですか……?」
辰夫が、魔王軍の侵略活動を見ながら困惑したように言った。
魔王軍の兵士たちは王城の前で──炊き出しをしていた。
湯気の立つ大鍋から香ばしい匂いが漂い、
住民たちが列を作っている。
列の中には、しれっと並んでいる王国兵も一人いた。
もはや誰もツッコミをしなかった。
「制圧?……違うなぁ──」
私は口の端を上げて答える。
「これは、”無理に支配されるより、
これのが良いわ”って思わせる征服よ?
優しさで殴る、ってやつ」
そう言うと、私はクスクス笑った。
「「ひぃ……」」
辰夫とエスト様が同時に身震いした。
確かに、これまでの戦争の概念を根底から覆すやり方だ。
敵を倒すのではなく、
敵よりも住民に愛される──それが私の征服方法。
私は、どっしりとそびえる王城の扉を見上げて、口角を上げた。
厚さ三メートルはありそうな鉄製の扉。
普通なら攻城兵器が必要なレベルの代物だ。
「さてと。
この扉……辰夫ロケットとエストミサイル……
どっちで壊そうか?」
「またですか!? 嫌です!
なんで選択肢が我々を投擲にすることオンリーなんですか!!」
辰夫の声が1オクターブ上がる。
「えっ!? やだよ!?
また飛ばされるの!? 私!?」
エスト様も慌てて後ずさった。
ふたりは両手をぶんぶんと振って、
全力で拒否の意思を示している。
一歩どころか、三歩くらい後ずさった。
「じゃあ辰夫──」
「断固拒否します!」
辰夫は、完璧な九十度の角度で頭を下げた。
「じゃあエスト様──」
「お姉ちゃん落ち着いて!?
こんなに可愛い妹を扉に叩きつけるの!?」
小娘は必死に斜めピースサインを自分の目に当て、
ウィンクしようとしたが、
手足が震えていて目に指が刺さりそうになっていた。
久しぶりに見たなこれ。
──沈黙。
私はため息をついて、右足に力を込めた。
「……ったく。
結局こうなるんだよね。
……まあ、ムダ様も言ってたしね」
頭の中で、あの人の声がよみがえる。
《扉をノックするってのは、”ここにいるよ”って伝える行為だ。でも俺は──”来たぞ”って言いたいんだよ。》
──その通りだ。私たちは招かれざる客なんかじゃない。
堂々と乗り込む、征服者なのだから──。
私は助走をつけて跳び上がる。
空中で体をひねり、両足を正面の扉に向けて突き出した。
──その瞬間、朝日が差し込む。
私の背に、金色の光が広がった。
全身の力を一点に集中させて──
「ドロップ……キィィィック!!」
ズガアアアァァァン!!!!!
王城の正面扉が、爆音とともに吹き飛んだ。
砕けた石片が宙を舞い、白い煙が立ち込める。
遠くで兵士たちの慌てた声が聞こえてくる。
──そのまま私は、仁王立ちでその中心に着地した。
「うん。やっぱり自分で蹴るのが一番スカッとするわ」
煙の中から現れた私の姿を見て、城内で悲鳴が上がる。
「こ、怖……」
エスト様が青ざめながら呟く。
「ドラゴン並みの破壊力……」
辰夫も同じく青ざめていた。
「よし、行くわよ」
私たちはそのまま、煙を割って城の中へ足を踏み入れた。
足音が静寂の廊下に響く。
コツ、コツ、コツ……
*
◆ 王城内部・廊下
城の中は、美しかった。
高い天井には豪華なシャンデリア、
壁には歴代の王の肖像画、
赤い絨毯が敷かれた廊下。
だが──人の気配がない。
「逃げたのかな?」
「お姉ちゃん怖かったもんね!」
エスト様が屈託なく言った。
「賢明な判断ですな」
辰夫が軍服の襟を正しながら答える。
エスト様は興味深げに城の内装を眺めながら浮遊していた。
壁にかかった絵画を指差して「この王様、眉毛すごいねー」などとはしゃいでいる。
「サクラ殿、王に会ったらどうするんですか?」
「決まってんじゃん。誠実に──」
私はくるりと振り返り、笑顔でグーを握った。
「真心こめて! 話し合い(物理)だよぉ♡」
「そのグーの拳のどこに誠実さがあんの!?」
エスト様が笑いながら突っ込む。
「いやもう絶対それ武力交渉だ……」
辰夫が顔を引きつらせながら、そっと身構えた。
私たちの足音だけが、静かに響く。
コツ、コツ、コツ……
*
◆ 王の間(天の声視点)
扉が飛ばされた爆音が城に響いた瞬間、
玉座の間の空気は凍りついた。
「今の音……まさか、正面扉が……?」
王が立ち上がると同時に、
扉の外から駆け込んできた兵士が叫ぶ。
「陛下ァ!!正面扉がっ!!扉が……ッ!消滅しましたァッ!!」
「……理解不能です」
バルドスは、扉の外を見つめたまま静かに言った。
「戦術も、規範も、交渉も通じぬ者が──
ただ、自分の”都合”で蹴ってくる。
これはもはや戦争ではない。”災厄”です」
玉座の間に重い沈黙が落ちた。
「……陛下。我々が相手にしているのは”災厄”なのです……」
「ぐ!ぐぅううううう!
近衛兵!私を守れ!!この部屋に兵を集めて!!!」
王は立ち上がって、玉座の後ろに隠れようとした。
だが、呼びかけに応じる者はいない。
近衛兵たちは既に散り散りに逃げ出していた。
廷臣たちもざわめき始める。
「陛下、落ち着いてください」
「落ち着けるか!! あの鬼の女が来るんだぞ!!」
その横で、バルドスが静かに言った。
「……逃げてください……」
「逃げるって……おい……どこにだ……?」
王の声に絶望が滲む。
城の中に足音が響いてきた。
ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる音。
──まるで死神の足音のように、玉座の間の全員の心臓に響く。
コツ、コツ、コツ……
*
◆ 王の間の前・控えの間(サクラ視点)
コツ、コツ、コツ……
やがて、物々しい扉が現れた。
扉の前には本来なら近衛兵が立っているはずだが──
誰もいない。逃げたか。
私はその扉を見上げる。
王の間の扉は、
さっき蹴り飛ばした正面扉よりさらに立派だった。
金の装飾に、王家の紋章──
どう見ても”蹴ってはいけない”オーラが漂っている。
私はその前で足を上げてストレッチを始めた。
「うーん、またこれ蹴るのか……」
「いけいけ! ドロップキックだー! お姉ちゃん!」
小娘がノリノリで宙を舞う。
「選択肢が蹴るしかない!?
待ってください!? また蹴るんですか!?
ここ、王の間ですよ!? 中に王いますよ!?」
辰夫が本気で止めにきた。
「その王のクビを取りに来てるんやろがい!!!!!」
私は仁王立ちで叫んだ。
「ひぃっ!?」
「戦争ってのは!クビ!!最終的にクビやろがい!!
クビ落とすか落とされるかの世界なんやろがい!!!」
「どこの方言!?」
エスト様が混乱している。
「お前のクビ落としたろか辰夫!?
いま”また蹴るんですか”って言ったんか?
おぅ、こらァ!? 辰夫ロケットするか?
この扉におぉぉぉぉん!?」
「さぁ! 蹴りましょう!」
辰夫が扉にすっと手を差し出した。
覚悟完了の顔だった。
「せやかて! いくがな! やろがい!!!」
「だからどこの方言なの!?」
エスト様の困惑が深まっている。
「しらん!……やろがい!!」
「えぇ?」
うなだれるエスト様。
そんなエスト様を横目に私は後ろに下がり、
扉に向かって駆け出す──
タタッ……!
(──こないだまでさ。
上司にも、先輩にも、ナメられてきた。
“笑って流せ”って、昔は言われてさ。
でもね、私もう──流さないことにしたのよ。
“女だから”とか、”下っ端だから”とか、
そういうの全部……黙って受け入れてた。
──でもこの世界では、全部壊す。)
タタタッ……ピョーーーン!
「王様ァァ!!
そのクビ差し出してもらいますよォッ!!」
──渾身のドロップキックが放たれるその瞬間!
ギィィ……と、扉が開いた──。
「開くんかい!」
ズザーッ☆
スライディング。
ゴォン☆
「にゃん!?」
変な声が出た。
顔面を床にぶつけた音がした。
「……ふ……ふふ……
殺意……マックスだわ……」
床に突っ伏したまま、私は震えながら呟いた。
「ぷ、ぶはっ!?」
エスト様が吹き出す。
「こ、これは──!?」
辰夫も堪えきれなかった。
「ぎゃはは! お姉ちゃん大丈夫!?
あははははは! スライディン……あははははは!」
「っ……っくくく、わははははは!
……痛い……腹筋が死ぬ! はははははは!!」
ふたりが転げ回りながら笑い転げる。
「……お前ら、楽しそうだなぁ?」
床から私の声が、静かに響く。
──時が、止まった。
サーーーッ……(エストと辰夫の血が引く音)
「ひいっ!?」
「ギャーーーーース!?」
エストと辰夫が転げながら振り返ったその瞬間──
私の全力ドラゴン・スクリューが炸裂した。
ゴギャッ!! ゴギャッ!!
「ぐるんぐるんぐるん!!?」
「やめてやめてごめんなさいぃぃぃぃ!!!」
ふたりは仲良く、壁に突き刺さって停止した。
…
そして、扉を開けた兵士と目が合う。
「あの……扉を壊さないでくださいと、王様が……」
「あ、はい。ありがとう? ごめんね?」
私は着物の汚れをパンパンと払いながら答えた。
ぶつけたオデコが真っ赤になっている。
──キッ、と部屋の中を見る。
怯える王と、目が合った──。
「……やっと会えたね?」
私はニコォ……と微笑んだ。
王が喉を鳴らした──恐怖に、声すら出せずに──。
(つづく)
◇◇◇
──今週のムダ様語録──
『扉をノックするってのは、”ここにいるよ”って伝える行為だ。
でも俺は──”来たぞ”って言いたいんだよ』
解説:
ノックは「気づいてほしい」っていう願い。
でも”来たぞ”は、気づかせる気なんかない奴がぶつける存在そのものだ。
ムダ様にとって、扉は開けてもらうものじゃない。
蹴って通るから意味がある。