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後ろを振り返ると周辺の木々にも燃え移り、高級娼館『Casa dell’amore』は炎に呑み込まれ、陥落していく様子が見えた。
隠れ家的存在だったクラシカルな雰囲気の洋館の面影は既にない。
消防車が何台も来て消化活動をし、救急車も数多く到着していた。
この火事を今ニュースで取り上げているのか、多くの報道陣の姿も見え、上空には沢山のヘリコプターが爆音を降らせながら旋回している。
火事の様子を一目でも見ようと、娼館周辺を埋め尽くしている多くの野次馬。
中にはスマホカメラで撮影しているヤツもいた。
その瞬間、ドンっと大きな爆裂音と身体中に響く振動とともに、巨大な火柱と黒煙が立ち昇り、野次馬たちが一斉に悲鳴を上げる。
二〇二四年十二月初旬、高級娼館『Casa dell’amore』は焼失した。
「いっ…………いやあぁぁぁああぁぁあああぁぁっっ!!!!!!」
侑は絶叫して泣きじゃくる瑠衣を強く抱きしめて、この惨状を見せないように胸に顔を埋めさせた。
戦禍に放り込まれたような状況に、何も言葉が出てこない。
侑は、気が動転している瑠衣を腕に閉じ込める事しかできなかった。
彼の脳裏に、ふと浮かんできた、オーナー凛華の言葉。
『響野様。愛音…………いや、九條瑠衣の事……よろしく……お願い…………致します』
その返事に応えるかのように、侑は嗚咽している瑠衣を掻き抱きながらも、愕然と燃やし尽くそうとしている洋館を、ただ見つめていた。
「…………とにかく、お前が無事で良かった。オーナーも…………無事だと……いいんだが……」
侑は、煤だらけになってしまったベージュブラウンの髪をゆっくり撫で続ける。
「九條」
黙ったまま、顔を歪にさせて涙を零し続ける瑠衣の顔を覗き込んだ。
「…………お前…………行く所ないんだろ?」
顔を伏せたまま、彼女が肩を小刻みに震わせながら頷く。
「…………俺の自宅が東新宿にある。しばらくの間、うちにいるといい」
「……っ…………いっ……いいんっ…………です……か?」
消え入りそうな声音で答えた瑠衣に、侑は手が汚れてしまうのも構わずに彼女の頭を撫でた。
「こんな状況だからな…………当分の間……俺の自宅にいろ」
「…………申し訳……ありま……せん…………厄介に…………なりま……す……」
「…………いつまでもここにいても仕方がない。行くぞ」
侑は瑠衣の肩を支えながらパーキングへ向かい、瑠衣を乗せ、東新宿の自宅に連れ帰った。
***