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「ふん、こいつも破壊するか……」
そう言って奴らがクリスタルと呼んだ魔道具を粉々に砕いたキスミさんは僕の元に来てくれた。
「すまないな、待たせた。周りの片付けをしていて遅れてしまった」
僕はもう声も出せない。
「じきに解呪してやる。それまで──」
どうしたんだろう。かすむ視界でキスミさんが狼狽しているのがわかる。
「これは、そんな……奴らは、転移者たちはそんな事まで、どこまで身勝手なんだ!」
「キスミ様」
「バレッタ……しばらくはこのまま頼む」
「──はい」
エミールはもう声の出ない口をぱくぱくとさせてどうしたのかと聞いている。
「エミール……これは、この呪いはほんのひとかけらのものでしか無いんだ。エミールだけを助けようとしてもダメなんだ」
まさか、これほどに過去の転移ニホン人たちが自分本位でしかないとは思わなかった。
「呪いはこの王国全土に染み込んでいる。それも大昔に、おそらくは転移ニホン人たちの時代には既に」
彼らは帰郷を願い、叶えられなかった。その術がないと知るとこの世界を謳歌する事にしたのだと。
考えれば分かる事だが、人の心というのはそんな単純な話ではない。
これがダメだからそれでなんて割り切れるはずがないんだ。
きっと彼らも足掻いただろう。どれほどの非情な事実に行き当たったかも分からない。そのうちに、諦めて開き直ってこの世界で生きたのだろう。それはいくらチートじみた力を持っていたとしても幸せだっただろうか。
彼らは英雄と持て囃されても根本は被害者なんだ。時空を超えて連れ去られた片道切符の拉致被害者。巨大な力を持った被害者。
その彼らが、この世界で富を築き何者をも従え欲望に走ったとしても何ら不思議ではない。むしろそれでもこの御国のためにと働くやつなんかがいたら気持ち悪いと俺は思う。
そして、欲しいものを手にして好き勝手生きた彼らが、死んだ後もこの国がのうのうと存在することを彼らは許さなかった。
だからこの国全てを呪い、自分たちが死に絶えた時にこの王国が滅びる装置を造った。
だがそれでも親の情というものとでもいうのか、子孫に魔道具の使い方を伝え、彼らの子孫が生きているうちは発動させないようにしたんだ。だから貴族たちはあのクリスタルのカケラを持っていた。
そして、そのクリスタルはいま、俺の手で砕け散り呪いの紫に染まっている。この装置は起動だけのもの。あとは──自動で発動する。
俺の役目を果たせば、エミールの願いを叶えようとすればさけられなかった結末。彼らの心情も分からなくはないが、こんな仕掛けまでするとは。
「エミール、バレッタ。少し待っていてくれ……俺がどうにかしてみせる」
そう言って俺は、時間の進みを遅らせた世界でこの結末を変える方法を探すために城を飛び出た。