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エミールはバレッタに任せてある。バレッタに自意識があるとは言え、彼女は俺だ。俺の命令にはきちんと従う。城の魔獣も既にいない。通常よりも遅くなっている時間の中で2人を脅かすものはない。
俺は風の魔術で自身を吹き飛ばして上空から王国を俯瞰する。
その全体に呪いが蔓延しているのがわかる。その規模は俺たちが襲撃した王城に留まらず、やはり王国全土にまで広がっている。
この世界には魔力が満ちている。その魔力を少しずつ取り込み、呪いの魔術が発動までのカウントダウンを始めていた。
落下していく俺を小さなエレメントたちが取り囲む様にチカチカと光っている。
妖精もいる。精霊も。俺の周りを取り囲み手招きしている。
何だこの現象は。俺はこのあと普通に着地して呪いを打ち消す方策を探すために奔走しなければならないのに、なぜここでファンタジーな光に包まれなければならない。
そして俺は着地するよりずっと早く、背中に草と花の香りを感じた。
「──ここは」
一面の花畑。一体ここはどこなんだろうか。記憶は確かだ。と、すると。
身体を起こして辺りを見ると、赤や緑の小さな精霊達が手招きしている。
ここがどこなのかは考えても無駄だ。あの誘いについて行くしかない。
ふと足元を見ると、小さな足跡がいくつかならんで続いている。
他にも先客がいるのか? どうも子どもの様だが。
精霊達についていくと、じきに見えてきたのは生垣とそれに囲われた東屋のような建屋。生垣はクチナシか、甘い香りが心を和ませる。
東屋には机と椅子が2脚。その片方には既に座っている人がいる。どうやら先客は女性の様だ。
だが近づくにつれ、その女性が異様に大きい事に気づいた。
俺の倍はある。手招きしていた精霊たちは先にその女性の元に辿り着き何やら話しかけている様だ。
そしてその女性はこちらに向き直り、立ち上がると恭しく礼をした。
「初めまして。私はこの精霊界の女王をしております、エルフィアと申します。貴方様はかなりの高位の神とお見受けしますが、こちらにはどの様な御用件で参られましたか?」
なるほど、こいつはこの精霊たちの女王で……誰が神だって?
「俺は神などではない。ただのヒト種だ。ここにはいつの間にか来ていたが──そちらが呼んだのではないのか?」
そうだ。俺はこの精霊達に招かれたのだ。だからこの精霊女王の言うことは全く見当違いだ。
「神ではない? それだけのモノを内包しておいて? なるほど、ではいつもの様に迷い込んだ者として扱って良いということですか……ふむ。ではそうさせてもらいましょうかしら」
精霊女王はそう言うと、その身を変貌させて巨大な花となった。