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第10話:ライバルの赤
研修二日目。
香波対策局の訓練場は、昨日よりも香波濃度が高かった。模擬市街区全体に微かに鉄香が漂い、天井の濃度計が赤色ランプを点滅させている。
今日は複数チーム同時進行の模擬戦。観覧席には局員と研修生が集まり、仲間の動きを見守っていた。
春瀬拓真は黒のコンプレッションシャツに局支給の軽量防具を装着。腕や肩に沿ったラインからは、筋肉の成長がわかる。
庭井蓮は防具なしのジャージ姿。髪は後ろで束ね、琥珀色の瞳が戦場全体を鋭く見渡していた。
そこに、一人の青年が歩み寄ってきた。
短く刈り込んだ栗色の髪、がっしりした体格。着ている防具は新品同然で、肩口には有名香波武道会のワッペンが縫い付けられている。
「お前が春瀬か。昨日の制圧、悪くなかったな」
淡々とした声だが、視線は試すように挑戦的だ。
彼の名は神崎颯馬。攻撃系赤香波のエリート研修生で、都市部の大会で何度も優勝している。
「一対一でやらないか? 絶香者なしで」
周囲がざわつく。絶香者の無香域なしに赤香波者同士がやり合えば、力量差が如実に出る。
拓真は一瞬ためらったが、昨日までの蓮との訓練を思い出し、頷いた。
「……いいよ」
模擬戦が始まる。
颯馬の赤香波は鮮烈で、焦げ香と熱が同時に襲いかかる。
拓真は緑から黄、橙へと変化させ、赤まで持っていく。鼓動を整え、波を集中させる——昨日より速い。
「ほう……」
颯馬がわずかに笑い、正面から波をぶつけてきた。赤同士の衝突で視界が揺れ、金属質の匂いが広がる。
拓真は一歩下がり、呼吸を深くして拍動を安定させる。昨日までできなかった制御が、今はできていた。
最終的に引き分けで終了。観客席から拍手が起こる。
颯馬は息を整えながら笑った。
「悪くない。赤を保ちながら動けるやつは、そういない」
蓮が近づき、肩を叩く。
「相棒、もう立派な香波者だな」
拓真は少し照れながらも、胸の奥に確かな自信が芽生えていた。
——この場で戦えるだけの力を、自分は手に入れつつある。