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恵
「では、通常業務に戻るように。お疲れさま」
谷岡の声掛けで席を立つと、美花は、心にポッカリと穴が空いたように放心しつつ、カフェを後にした。
(静岡に……転勤…………か……)
いつもだったら、カフェから職場までの距離は、歩いて数分も掛からないのに、今は、やたらと長く感じてしまう。
圭にいつ話そうか。
仕事が終わってから、彼に会う予定だけど、その時に話した方がいいのだろうか?
美花の頭の中で様々な思いが駆け巡っていく。
けれど、谷岡は『まだ事業所内では公になっていない』と言っていた。
(だったら、正式に辞令が出た時に、圭ちゃんに伝えた方がいいかも……)
終業時間まで、まだ二時間近くある。
美花は、思考を断ち切るように、頰を軽く両手で二回叩き、気合いを入れ直した。
残り時間の業務も何とか熟し、退勤時刻を知らせるチャイムが鳴ると、美花は、急いで帰り支度を始めた。
この後、圭と会い、人生で初めてのバレンタインデートを過ごす。
彼とは十七時半に、立川駅の壁画前で待ち合わせだ。
(チョコもプレゼントも、しっかり持った。いざ、出発っ……!)
美花は忘れ物がないか、今一度確認し、職場を出た。
社屋からファクトリーズパークの正門まで、徒歩で数分ほど。
行きと同様、圭に会うまで、手作りチョコレートが崩れないように、気を付けながら歩く美花。
仕事中、突然の静岡行きを打診され、心の中には小さな嵐が巻き起こっている状態。
(今日はとにかく、圭ちゃんとの時間を楽しまなきゃ……!)
恋人に会える嬉しさが先立ち、美花の足取りも次第に軽くなっていった。
「お疲れさまですっ」
正門前にいる警備員に、通行許可証を掲示して、パークを出た美花。
目の前の交差点で信号待ちしながら、高揚する気持ちを落ち着かせようとしても、これからデートだと思うと、やっぱり嬉しい。
信号が青に変わり、一歩踏み出した時。