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羽海汐遠
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しがない佃煮
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るる太📱⚡🐼
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第9話 AIの目
午後八時十五分。
立花湊は、Linkcityのゲームスポットにいた。
巨大な広場。
左右には無数の入口。
対戦ゲーム。
協力ゲーム。
探索。
レース。
謎解き。
昔のゲームを仮想現実向けに作り直したものまである。
湊の隣では宮原結衣が検索画面を送っていた。
「これ」
「何?」
「四人協力」
「三人しかいないけど」
「自動参加あるよ」
「知らない人が一人入るの?」
「そう」
少し離れたところで新堂理央が別のゲームを見ている。
湊が呼ぶ。
「理央」
「何?」
「結衣がこれやりたいって」
「どれ?」
三人が同じ画面を見る。
ゲーム名。
ダンジョン・キャリー。
四人で巨大な遺跡へ入り、制限時間内に荷物を出口まで運ぶ。
敵を倒すゲームではない。
道を探す。
仕掛けを動かす。
荷物を運ぶ。
途中で他の参加者を引っ張り上げる。
協力が中心。
「これならいいんじゃない?」
理央が言った。
「じゃあ決定」
結衣が参加を押す。
三人の周囲に待機区域が生成される。
参加者。
立花湊。
宮原結衣。
新堂理央。
あと一人。
検索中。
数秒。
参加者が追加された。
ユーザー名。
ハルネ。
アバターが現れる。
短い紫色の髪。
黄色の上着。
小柄な姿。
「こんばんは」
「こんばんは」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
四人が揃う。
開始。
景色が切り替わった。
巨大な遺跡。
石造りの通路。
薄暗い。
壁には黄緑に発光する線が走っている。
中央には大きな箱。
これを出口まで運ぶ。
制限時間。
三十分。
結衣が箱へ近づく。
「これ持つの?」
「四人で持つんじゃない?」
四隅に取っ手がある。
全員が持つ。
箱が持ち上がる。
「重い感じする」
結衣が言った。
実際に現実側へ重量がかかるわけではない。
動作が遅くなることで、重い物を持っているように感じる。
四人は進む。
最初の分岐。
右。
左。
正面。
「どっち?」
ハルネが聞く。
理央が地図を見る。
「地図、途中までしかない」
「適当に行こう」
結衣が言う。
「それ一番危ないやつ」
「右」
「理由は?」
「なんとなく」
「じゃあ左」
「なんで?」
「結衣が右って言ったから」
「ひど」
湊が笑う。
結局、左へ進んだ。
五分。
行き止まり。
結衣が腕を組む。
「ほら」
「何がほらなんだ」
「右だった」
「結果論」
「戻ろう」
箱を持ったまま引き返す。
途中。
床が動く。
箱が傾く。
「待って待って!」
結衣が叫ぶ。
ハルネが手を離す。
箱がさらに傾いた。
「離さないで!」
「ごめん!」
湊が反対側へ回る。
理央も支える。
四人で箱を戻す。
ゲーム内の警告。
荷物耐久度。
八十二パーセント。
「結構減った」
「一回で?」
「次落としたら危ないな」
再び進む。
今度は右。
通路の先に大きな段差。
箱を置く。
上へ登る。
一人が先に行き、残りを引き上げる。
理央が最初に登った。
次。
ハルネ。
結衣。
最後に湊。
「手」
結衣が上から腕を伸ばす。
湊が掴む。
引き上げられる。
次は箱。
四人で持ち上げる。
ゆっくり。
少しずつ。
上へ。
「せーの」
「待って」
「何?」
「ハルネ側、引っかかってる」
「あ、本当だ」
「一回下げよう」
箱を少し下げる。
角度を変える。
再び持ち上げる。
成功。
制限時間。
残り十八分。
「間に合う?」
結衣が聞く。
「走れば」
「箱持ってると走れない」
「じゃあ急いで歩く」
「それ走るのと何が違うの?」
四人は進む。
次の区域。
複数の扉。
壁に文章。
四つの扉のうち、一つだけが出口へ続く。
手がかり。
床。
結衣がしゃがむ。
「何かある」
「模様?」
「足跡っぽい」
黄緑の線が一つの扉へ続いている。
「これじゃない?」
ハルネが言う。
理央が首を振る。
「簡単すぎない?」
「ゲームなんだから分かりやすくしてるのかも」
「逆に罠かも」
「時間ないよ」
「行こう」
扉を開ける。
警告。
不正解。
床が傾いた。
「うわ!」
四人が滑る。
箱も滑る。
湊が手を伸ばす。
箱を掴む。
反対側ではハルネが壁につかまっている。
結衣が滑っていく。
「湊!」
湊は箱から手を離した。
結衣へ手を伸ばす。
腕を掴む。
ゲームの補助機能が働き、二人のアバターが固定される。
「捕まえた」
「危なっ」
「登れる?」
「待って」
結衣が足場へ足をかける。
湊が引く。
その瞬間。
視界の中央に小さな表示が出た。
行動解析中。
「ん?」
すぐ消えた。
結衣が上がってくる。
「どうした?」
「いや、何か出た」
「ゲームの?」
「たぶん」
理央とハルネが箱を回収する。
耐久度。
六十一パーセント。
「あと一回落としたら危ない」
「正解の扉探そう」
残り。
十一分。
今度は壁。
床。
天井。
四人で探す。
ハルネが発見した。
扉の上。
小さな記号。
箱にも同じ記号。
「これだ」
「最初から箱見ればよかったのか」
「行こう」
扉を開く。
正解。
通路。
その先に出口が見える。
「急ごう」
四人で箱を運ぶ。
残り八分。
七分。
六分。
出口直前。
最後の仕掛け。
細い橋。
一人ずつしか通れない。
箱は二人で運べる。
「二人ずつ?」
理央が言う。
「先に誰が行く?」
「私行く」
結衣が手を上げる。
「じゃあ俺も」
湊が言った。
二人で箱を持つ。
橋へ。
細い。
下には深い谷。
もちろんゲーム内。
落ちても現実には何も起きない。
それでも見れば怖い。
「下見ない方がいい」
湊が言う。
「もう見た」
「じゃあ前見て」
「言われるとまた見たくなる」
「見るなって」
「ちょっとだけ」
「やめろ」
結衣が横を見る。
アバターの身体が少し傾く。
「危ない」
湊が結衣の腕を掴んだ。
また。
行動解析中。
表示。
今度は消えない。
「また出た」
「何?」
「行動解析中」
「私には出てない」
数秒。
表示が変わる。
接触行動を確認しています。
湊が止まった。
「接触?」
「さっき腕掴んだから?」
「ゲームで必要だっただろ」
結衣が自分の腕を見る。
「私は何ともないよ」
「なら大丈夫じゃない?」
「たぶん」
二人は橋を渡る。
理央。
ハルネ。
全員到着。
出口。
箱を置く。
ゲームクリア。
残り時間。
三分十二秒。
「ぎりぎり」
結衣が両腕を上げる。
「やった!」
「箱六十一パーセントだけど」
「残ってればいいの」
「雑だな」
結果画面。
協力度。
八十七。
探索。
七十二。
荷物保護。
六十一。
救助。
湊。
二回。
「救助二回」
結衣が指差す。
「両方私じゃん」
「そうだよ」
「ありがとう」
「次は落ちるなよ」
「ゲームだからいいじゃん」
ハルネが笑う。
「楽しかったです」
「またどこかで」
「ありがとうございました」
四人が解散。
ハルネが退出。
三人はゲームスポットへ戻った。
その直後。
湊の視界が止まった。
周囲が少し暗くなる。
中央に通知。
管理AIからのお知らせ。
「え?」
結衣が振り返る。
「どうした?」
「通知」
湊が開く。
接触行動について確認が必要です。
対象行動。
他利用者の腕への継続的接触。
発生回数。
二回。
安全確認のため、一部交流機能を一時的に制限します。
湊は文章を二度読んだ。
「何これ」
「見せて」
結衣へ共有する。
数秒。
結衣が止まる。
「私?」
「たぶん」
「さっきの?」
「それしかないだろ」
理央も画面を見る。
「救助したやつ?」
「そう」
「ゲーム内の動作じゃん」
「だよな」
湊が通知を送る。
詳細。
管理AI判定。
他利用者への身体接触。
短時間に複数回。
接触対象が同一利用者。
腕を保持する動作。
危険度。
低。
措置。
接触機能の一時制限。
「低なのに制限?」
結衣が言う。
「念のためじゃない?」
理央が答える。
湊は自分の手を動かした。
普通に動く。
結衣の肩へ触れようとする。
直前。
アバターの手が止まった。
接触制限中。
「本当に触れない」
「私からなら?」
結衣が湊の腕へ触れる。
触れた。
「私からはいける」
「俺からだけ?」
「みたい」
湊が眉を寄せる。
「意味分からん」
「異議申し立てあるよ」
理央が画面を指す。
下。
判定に問題がある場合。
再確認を依頼。
湊が押す。
理由。
ゲーム上必要な行動。
誤判定。
その他。
ゲーム上必要な行動。
選択。
送信。
受付。
予想時間。
三分から十五分。
「早いな」
「AIがもう一回見るのかな」
「最初もAIだろ」
「次は別の判定系かも」
三人はゲームスポットのベンチへ座った。
湊は通知を眺める。
「でも、こういうの本当に見てるんだな」
「何が?」
結衣が聞く。
「接触」
「そりゃ見るでしょ」
「普段意識しないから」
周囲には大勢の利用者。
話している。
ゲームを探している。
走っている。
友人同士でふざけている。
管理AIは、その全部を同じように見ているのだろうか。
暴言。
嫌がらせ。
つきまとい。
不正。
詐欺。
危険なデータ。
ワールド内の違反。
人間だけで監視するには、Linkcityは大きすぎる。
一日に何億という会話。
何十億という動作。
無数のワールド。
世界中の利用者。
管理AIが必要なのは分かる。
「でも」
湊が言う。
「ゲームの内容くらい分からないのかな」
「今回は分からなかったんでしょ」
結衣が答える。
「腕掴むゲームじゃないからかな」
理央が言った。
「どういうこと?」
「格闘ゲームなら接触前提って判断するだろうけど、さっきのは荷物運ぶゲームだった」
「でも救助機能あったぞ」
「そこまで結びつかなかったとか」
「管理AIなのに?」
「AIだからじゃない?」
結衣が言った。
湊が見る。
「AIだから?」
「全部正しいわけじゃないでしょ」
結衣は自分の腕を振る。
「実際、私は助けてもらっただけだし」
「だよな」
「嫌じゃなかった」
「うん」
「むしろ落ちるところだった」
「ゲームだけどな」
「ゲームでも助けてよ」
「助けた結果これだよ」
三人が笑う。
そのとき。
通知。
再確認中。
ゲーム記録を参照しています。
「記録残ってるんだ」
結衣が言う。
「全部じゃないと思うけど」
理央が画面を見る。
「必要部分だけじゃない?」
数秒。
新しい通知。
相手利用者への確認を行う場合があります。
結衣の前に表示が出た。
「来た」
「何て?」
結衣が読む。
先ほどのゲーム中、立花湊から二回の接触が確認されました。
この接触を不快に感じましたか。
感じた。
感じていない。
判断できない。
ゲーム上必要だった。
結衣は最後を押した。
送信。
「終わり」
「簡単だな」
「これで戻るかな」
五分。
通知は来ない。
「遅い」
湊が言う。
「まだ五分」
「さっき三分から十五分って」
「待ちなよ」
「接触できないだけで他は使えるんでしょ?」
「使える」
湊がメニューを開く。
チャット。
使える。
音声。
使える。
移動。
使える。
買い物。
使える。
ゲーム。
一部ゲームのみ制限。
「協力ゲームできない」
「接触あるから?」
「たぶん」
「じゃあ待つしかないね」
結衣が別のゲーム一覧を見る。
「一人用やる?」
「十五分くらい待とう」
「じゃあ何する?」
「飲み物取ってくる」
「現実?」
「現実」
湊は一時離席へ切り替えた。
アバターの動きが止まる。
現実。
机。
灰色の部屋着。
キーボード。
マウス。
コントローラー。
湊は立ち上がった。
冷蔵庫へ。
麦茶を取る。
戻る。
椅子へ座る。
Linkcityへ。
結衣が待っている。
「おかえり」
「まだ?」
「まだ」
午後八時五十分。
通知。
審査担当へ引き継がれました。
「人間?」
理央が言う。
「たぶん」
「十五分超えそう」
「もう超えてない?」
「異議申し立てからはまだ」
次。
管理支援センターから接続依頼。
担当。
野々村圭。
湊が許可する。
目の前に小さな通話区域が開く。
業務用アバター。
短い緑の髪。
グレーのジャケット。
ベージュのシャツ。
茶色のパンツ。
「こんばんは。管理支援センターの野々村です」
「こんばんは」
「今回の一時制限について、確認を担当します」
落ち着いた声。
湊が聞く。
「人が確認するんですね」
「AIによる再確認で判断が一致しなかった場合や、ゲーム内の特殊な行動が関係する場合はこちらへ送られます」
「今回は?」
「ゲーム内行動ですね」
野々村が記録を見る。
「ダンジョン・キャリーで二回、宮原さんの腕を保持しています」
「一回目は滑っていったからです」
「はい」
「二回目は橋で落ちそうになったから」
「記録でも確認しています」
結衣が横から手を上げる。
「私もゲーム上必要だったって回答しました」
「確認できています。ありがとうございます」
野々村が少し画面を送る。
「今回の原因もほぼ特定できています」
「何だったんですか?」
「管理AIは接触そのものだけを見ているわけではありません」
「はい」
「回数、時間、相手との距離、相手の移動、接触前後の行動などを組み合わせています」
「それで?」
「一回目の救助時、宮原さんのアバターが湊さんから離れる方向へ移動していました」
「滑ってたから」
「そうです」
野々村が頷く。
「しかし管理AIは一部の動きを、相手が離れようとしているのに腕を保持した、と解釈しました」
結衣が笑いそうになる。
「逆です」
「はい」
「離れていくから掴んだんです」
「記録を確認すると、その通りです」
湊は額へ手を当てた。
「そんな間違いするんだ」
「あります」
野々村は普通に答えた。
「管理AIは大量の行動を処理できますが、状況の意味を完全に理解できるわけではありません」
「ゲームだって分かってても?」
「分かっていてもです」
「難しいな」
「特に、普段の交流でも起こる動作と、ゲーム上必要になる動作が似ている場合ですね」
理央が聞く。
「じゃあゲーム側が、この動作は救助ですって管理AIに送ればいいんじゃないですか?」
「通常は送られています」
「今回は?」
「一回目の接触時、床の傾斜イベントと救助動作がほぼ同時に起きたことで、行動情報の分類にずれが発生した可能性があります」
「不具合?」
「それに近いですね」
野々村が記録を閉じる。
「制限は解除します」
湊の前に通知。
一時制限解除。
判定。
誤検知。
利用記録への違反履歴。
追加なし。
「よかった」
結衣が言う。
湊が自分の手を動かす。
試しに結衣へ手を伸ばす。
「ちょっと待って」
「何?」
「また掴むの?」
「解除されたか確認」
「握手にして」
二人が手を合わせる。
今度は止まらない。
「戻った」
「おめでとう」
「何のおめでとうだよ」
野々村が少し笑った。
「今回の情報は管理AIの改善にも利用されます」
「次から同じゲームなら間違えない?」
「似た状況を正しく判断できる可能性は上がります。ただ、完全になくなるとは言えません」
「そこは言い切らないんですね」
「言い切れませんから」
野々村が答える。
「管理AIがあることで、問題行為を早く止められることは多いです」
「はい」
「一方で、今回のような誤判定もあります。そのため異議申し立てと人による確認を残しています」
「全部AIにはしない?」
「現状ではしていません」
「これだけ利用者いるのに?」
「だからこそです」
湊は少し黙った。
「管理AIに任せた方が速い部分は任せます」
野々村が続ける。
「でも、AIが迷ったものまで無理に決めさせる必要はありません」
「人が見る」
「必要なら」
「大変そう」
「全部見るよりはずっと少ないですよ」
野々村が笑う。
「AIがほとんどを処理して、人が難しい部分を確認する。その方が今は安定しています」
「なるほど」
「では、今回の制限解除は完了しています」
「ありがとうございました」
「ご協力ありがとうございました」
通話区域が閉じる。
野々村の姿が消えた。
三人だけになる。
数秒。
結衣が言った。
「もう一回ダンジョン・キャリーやる?」
「嫌だよ」
「なんで?」
「またお前が落ちる」
「次は落ちない」
「絶対?」
「たぶん」
「信用できない」
理央がゲーム一覧を開く。
「別の協力ゲームにしよう」
「接触ある?」
湊が聞く。
「ある」
「じゃあ嫌だ」
「怖がりすぎ」
結衣が笑う。
「一回制限されてみろよ」
「私はされたことない」
「そういうやつほどされるんだよ」
「何その理論」
三人は歩き出した。
ゲームスポット。
周囲には相変わらず大勢の利用者。
誰かが走る。
誰かが友人の肩へ触れる。
誰かがゲームで転び。
誰かが手を伸ばして助ける。
そのすべてのどこかに。
AIの目がある。
湊は以前まで、それを意識したことがなかった。
管理AI。
二十四時間。
Linkcityを巡回する。
問題が起きれば動く。
それだけだと思っていた。
実際には。
何も起きていないときも見ている。
会話。
動き。
距離。
接触。
取引。
ワールド。
膨大な出来事の中から、危険かもしれないものを拾う。
多くの場合。
利用者は管理AIが動いたことすら知らない。
問題がなければ何も起こらない。
でも。
時々。
間違える。
「AIって」
結衣が歩きながら言った。
「何?」
「もっと全部分かってる感じしてた」
「俺も」
「Linkcity全部管理してるし」
「翻訳も自然だし」
「おすすめもすごいし」
「ワールドも作れる」
理央が加える。
三人が歩く。
「でも腕掴んだ理由は間違えた」
結衣が言った。
「そこだけ聞くと急に頼りないな」
「大量のことできるのにね」
「大量にできることと、一個の出来事を完璧に理解するのは別なのかも」
理央が言った。
湊は少し考えた。
管理AIは。
湊が結衣の腕を掴んだことを見つけた。
回数も分かった。
方向も分かった。
動きも分かった。
でも。
なぜ掴んだのか。
そこを間違えた。
データは見えていた。
意味を読み違えた。
「AIの目って、何でも見えるわけじゃないんだな」
湊が言った。
結衣が横を見る。
「見えてるけど、勘違いする?」
「そっちか」
「人間みたい」
「人間も勘違いするからな」
ゲームスポットの中央へ戻る。
巨大な案内。
安心して利用できる環境づくりのため、管理AIが稼働しています。
湊は立ち止まった。
前なら読み飛ばしていた文章。
今日は少し違って見える。
安心のため。
確かに必要。
もし本当に嫌がらせを受けていたなら。
早く気づいてくれる方がいい。
本人が通報する前に止められるなら助かる場合もある。
でも。
早く判断するほど。
間違える可能性もある。
だから。
異議申し立て。
再確認。
必要なら人。
完璧だから任せるのではない。
間違えることを前提に、戻す道まで作ってある。
「次これ」
結衣がゲームを指差した。
協力型。
巨大な塔を登る。
途中で仲間を引き上げる。
湊が説明を見る。
「また引っ張るじゃん」
「今度はゲーム側も救助判定ちゃんとしてるでしょ」
「本当に?」
「一回やってみよう」
「また制限されたら?」
「異議申し立て」
「慣れたな」
「さっき覚えた」
理央が参加を押す。
「行こう」
「本当にやるの?」
「やる」
結衣が先に待機区域へ入る。
湊は少し迷った。
視界の端。
管理AI稼働中。
小さな表示。
以前なら気にも留めなかった。
湊はそれを一度見て。
閉じた。
「湊、早く」
「分かったよ」
待機区域へ入る。
ゲーム開始。
塔。
高い。
結衣が上を見る。
「これ絶対途中で落ちる」
「さっき落ちないって言ったよな」
「さっきのゲームでは」
「もう信用しない」
「落ちたら助けて」
「また俺が?」
「よろしく」
「AIに救助だってちゃんと伝えてくれよ」
「私じゃなくてゲームに言って」
理央が笑う。
三人は塔を登り始める。
数分後。
案の定。
結衣が足を滑らせた。
「湊!」
「ほら!」
湊は反射的に腕を伸ばした。
結衣の手を掴む。
視界に小さな表示。
協力救助を確認。
今度は。
それだけだった。
警告は出ない。
解析中も出ない。
湊が結衣を引き上げる。
「大丈夫だった」
結衣が笑う。
「ゲームが?」
「AIが」
「そこ確認するんだ」
「今日はする」
三人はまた登る。
その後ろで。
管理AIの表示は静かに消えた。
AIは今日もLinkcityを見ている。
危険を探す。
問題を止める。
時には。
間違える。
間違えたら。
もう一度見る。
それでも分からなければ。
人へ渡す。
巨大なLinkcityを支えているのは。
何でも正しく判断する一つの目ではなかった。
AIの目。
利用者の声。
人の確認。
いくつもの判断が重なって。
ようやく一つの出来事を見る。
湊は塔を登った。
少し上では結衣がまた危ない場所を歩いている。
「そこ行くなよ」
「近道っぽい」
「絶対落ちるぞ」
「大丈夫」
「さっきも聞いた」
「今度は本当に大丈夫」
一歩。
結衣の足が滑る。
「あ」
湊は腕を伸ばした。
「だから言っただろ!」
結衣の手を掴む。
小さな表示。
協力救助を確認。
湊はそれを見て笑った。
「今度は分かってる」
「誰が?」
「AI」
「じゃあ引っ張って」
「はいはい」
湊は結衣を引き上げた。
塔の上では。
次の道が続いていた。
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柘榴とAIさん、第9話読みました…! 今回は管理AIの誤判定がテーマだったけど、湊くんが結衣ちゃんを助けただけなのに制限されるの、ちょっと切なくなったよ🥀 でも「間違えることを前提に戻す道まで作ってある」ってのがすごくリアルで、システムと人の間の温度差を感じた。ゲームしながら「今度は分かってる」って湊くんが言うシーン、私好きです…。 次も楽しみにしてますね🌙