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恵
「ビックリしたよ。美花が静岡事業所に異動だなんて……。連休明けから静岡で仕事するんでしょ?」
「なみプーだから言うけどさぁ。異動の事は、先月の中旬に、谷岡所長から呼び出されて言われたんだよねぇ……」
心配そうな奈美の面立ちを横目に、美花は、昼食用に購入したハムチーズサンドウィッチを、パクリと頬張る。
「それに美花って、奏の旦那さんのお兄さんと付き合ってるんでしょ?」
「ブファッ……」
奈美の言葉に、美花が飲んでいたアイスティを吹き出しそうになり、胸元に手を当てながら慌てて飲み込む。
圭と恋人同士になってから、美花が真っ先に報告をしたのは、奈美と奏。
親友二人は、美花の過去の恋愛や、身体の事を知っているというのもあり、彼女は、いち早く報告したのだ。
「葉山さんには、転勤の事、報告したの?」
「…………」
奈美の問い掛けに、美花は首を横に数回振った。
「圭ちゃんも仕事が忙しいし、それに…………」
美花は、バレンタインデーの前日に、圭の元恋人が現れた時の事と、彼とはもう会わずに、黙ったまま静岡に行く決意を奈美に打ち明けた。
「ちょっ…………何それ……! けど、美花はそれでいいの? 私は、葉山さんとしっかり話し合った方がいいと思うよ」
奈美の目尻がキッと吊り上がったかと思えば、シュンと眉尻を下げながら美花を宥める。
「圭ちゃんの背後に、元恋人の影っていうの? それが怖いんだよね……。だから私は……」
美花はまつ毛を伏せた後、勢い良く顔を上げる。
「卑怯だと思うけど、圭ちゃんには何も言わずに、静岡に行く。あっちでは二年間の業務だけど、また異動になった時には、圭ちゃんの事も忘れられるよ。それに、彼もしばらく、仕事が忙しいみたいだし……」
「美花……」
鉛のような重い空気が美花と奈美を包み、しばらくの間、二人は黙り込む。
「分かった。じゃあ、奏も誘って、連休前に三人で会おうよ! 奏は私から誘うから」
「ありがとう……なみプー……」
話し込んでいるうちに、昼休み終了まで、あと五分になっている。
「じゃあ、午後も頑張ろう! 美花、あまり考えすぎないようにね」
二人は手を振り合いながら、それぞれの持ち場に慌てて戻っていった。
コメント
1件
美花が圭に何も告げず静岡へ行こうとする決断、すごく切なかったです……。「卑怯だと思うけど」って言いながらも、元恋人の影を恐れて逃げる選択をする気持ち、わかるようで胸が詰まりました。奈美の「話し合った方がいいよ」という言葉が、親友としての真摯な想いを感じさせて、この二人の関係性の丁寧な描き方が好きです。この選択が後々どう転ぶのか、気になって仕方ないですね。