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黒猫のイレイラ

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黒猫のイレイラ

33 - 【最終章】第2話 貴方だけを想い咲く花(桜塚イレイラ・談)

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2024年01月25日

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一息つき、口を開く。

「……何で、今回は倒れたのかなって不思議に思って。倒れたのは、『初めてだ』って皆さん騒いでいましたよね?じゃあ、私が死んだ時はどうして平気だったのかなって。あ、すみません、『私』……じゃないや……えっと、猫の方です」

「いいんですよ訂正しなくても。イレイラ様はイレイラ様です。生まれ変わり、姿が変わっても」

一呼吸おき、セナさんが言葉を続ける。


「それは多分。思い出の量の問題ではないかと思います」


「思い出の、量?それって……」

「猫だった時のイレイラ様とは、振り返る事が出来る記憶が多くありますし、死期を覚悟する時間も沢山ありました。でも今回は、思い出があまりにも足りなくて怖くなったのではないかと。今の貴女様の姿にも、カイル様は一目惚れされていますから。これから多くの経験を二人でしていこうと思っていた矢先の事で、すぐに『次の貴女様を呼べばいい』などと割り切る余裕は無かったのでしょうね」


「カイルが……『私』にも一目惚れ、していたんですか?」


「はい。疑いようのない程わかりやすく」

「でも、彼は『猫』だった時の私が好きなんですよね?今の私の事も好きって……裏切りなんじゃ?」

「何故ですか?“魂の結婚式”をなさったお二人が、死に引き裂かれても何度も惹かれ合うのは当然です。生まれ変わった貴女へ好意を抱けない方が、むしろ裏切り行為だと私は思います。先程もお伝えした通り、生まれ変わろうともイレイラ様は、イレイラ様なのですから」

セナはそう言うと、私の左胸をスッと指差してきた。

「ここにその証がありますよね?薔薇の花の様な、小さな約束の印が」

「あります。でも、何で知って?……あ、そうか、セナさんは証人として『あの場』に居たからか」

「おや?思い出したのですか?」

「あ、いえ。思い出した訳では無いんですが……その、色々ちょっと」

言葉を濁して口を閉じる。話せば長くなるし、話して信じてもらえるかどうかわからない。『魔法なんてモノまであるこんな世界で、何を迷う?』とも思うが、カイルにすらまだ話していない件だし、そもそも話が脱線してしまう事も懸念材料になった。

「いいんですよ、無理に説明は求めません。ただ、難しく考えるな事はないと思いますよ?お二人は魂の伴侶なのですから、惹かれ始める事に時間は必要ないかと」


「でも、私は猫だった時の事を何も覚えていないし、その事でいつか彼を怒らせて、今までの気持ちも全て捨てられたらと思うと……どうしたらいいか——」


また、考えがぐるぐると回り始めた。ライサが大事にしていたカイルへの恋心を、無惨にも物理的に砕かれたシーンが頭をよぎり、体に寒気が走る。あんな思いを自分までするくらいなら、伴侶だろうが何だろうが好きになってはダメなのでは?とまで考え始めてしまった。


「私では、証明になりませんか?」

「セナさんが、証明に、ですか?」


意味が掴めず、私はキョトンとした顔を彼に向けた。

「私は、カイル様の御生誕時に神官になった者の一人です。今まで何度も生まれ変わり、その度に、以前の記憶がある限りは常にカイル様にお仕えしてきました。姿形も毎回違いますし、性格も微妙に違います。それでもカイル様は、私を含む神官達全員をありのまま受け入れ、側に置いて下さいました。あのお方は、一度懐に入れてしまうとずっと大事にして下さいますよ。……まぁ、私達が歳を重ねると、少しよそよそしくなってしまわれますけどね」

セナさんが少し悲しそうな顔をした。もしかして、今まさにその時期なのだろうか?とても良い関係を築けているように見えるのに。

「で、でも、ライサさんの事は……」

「どうしてそれを?——あ、すみません、説明は要らないと申しましたのに。……そうですねぇ、あのお方の事も、イレイラ様に手出しをしなければ、同じ神子として傍観していたかと思います。あのお二人に何かがあったのは、カイル様の逆鱗である貴女様が関わったからでしょう?」

「じゃあ……私は、捨てられたりしないと、セナさんは思います?」

「ありえませんよ。簡単に捨てられる想いなら、魂の婚姻などそもそも行いません。あれは古代魔法の一つで、お互いの魂をがんじがらめに拘束し合う様な行為ですから」


(え?——えっと、何かとても怖い事を聞いた気がするんだけど……)


口を開けたまま、私は黙ってしまった。

「イレイラ様へ向けるカイル様の執着心は、長年お仕えする私達でも、生暖かい目で見てしまう程です。なので、何も心配せずにカイル様と愛し合って頂けると、私達も安心してお仕えできます」と言ったセナさんに、ニコッと微笑まれた。

パクパク口を動かし、数回目で何とか無理矢理言葉を発する。

「でも、あの、私はまだ逢ったばかりで、カイルの事を自分自身がどう思っているのかよくわからなくって……だから、愛し合うとか言われても、その——」

『愛し合う』の言葉を深読みしてしまい、顔が赤くなる。い、いたたまれないっ。

「堂々巡りしてしまうくらい、カイル様の事をお悩みになっているのにですか?捨てられる心配をされている時点でもう、今のイレイラ様も、カイル様に好意を抱かれていると私は思いますが、違いますか?」

「——あ……」

その通りだ、と思った。彼が私の恋心を捨てるには、カイルに想いを受け取ってもらっている事が前提だ。という事は、私はもうカイルにそれを差し出しているのか。


気付かぬうちに。

猫だった自分と、同じ様に。


「この先、前世の記憶が戻る事があるかもしれません。その記憶に引っ張られ、どちらが本当の自分なのかとか、この考えは『誰』の想いなのかと、迷う日もくるでしょう。でも、それらも含めて、結局は全て『自分』が考えた事なので怖がる必要などありませんよ。魂の本質は変わらず、根っこは一つなのですから」


「前世の記憶も、自分の人生の流れの一つ……?」


「そうです。幼少期の思い出程度のものですよ。自身の年齢が違えば、その時々で、同じ人生でも違う事を考えますでしょう?」

「そうですよね、ホント……そうだ……」


(何で猫の時の記憶と、今の自分を切り離して考えようとしていたのだろう?どちらも自分じゃないか)


セナさんのおかげで、やっとその事に納得出来た。

「……解決、出来ましたか?」

彼の優しい笑顔に、私は自信を持って答える。

「はい!」

元の世界で住んでいた街では決して見る事が出来ない程一面に広がる空を仰ぎ見る。自分の心の中と同じくらいスッキリした青空が、瞼の奥に沁みて少しだけ涙が出た。


——胸に刺さった大きな棘が、溶けていく気がした。

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