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「なるほど。本体は別にある、か。……これは面倒だ」
空を見上げたまま、無感動につぶやく仮面の男。それから、ダインを振り返り、冷たい声で問いかける。
「答えろ。今の《叫ぶ者》、お前と一体、どんな因縁がある?」
「さ、《叫ぶ者》? な、何だよ? それは?」
精一杯強がってはみたものの、ダインの声は完全に泣き声だった。
「人であることに耐えきれず、人であることを売り飛ばした者どもだ」
声を低くし、ヴァロフェスが続ける。
「別段、珍しい連中ではない。どんな町や村にも住みついているが、それと気が付く者が少ないだけだ」
何だよ? こいつ、さっきから何の話をしてるんだ?
ダインには、仮面の男の言葉が一句たりとも理解できなかった。
「うわっ!?」
強引に立ち上がらされ、ダインは悲鳴をあげた。
掴まれた腕から伝わってくる、男のどす黒い感情に身を焼かれるような気がして。
「恐らく、お前は――、最近、何か、変わった品を手に入れたはずだ」
ドキッとして、顔を強張らせるダイン。慌てて目を反らすが、動揺は十分、相手に伝わってしまったようだ。
「やはり、そうか」
「…………」
「ならば、それを私に渡せ」
思わず、ダインは目を剥いていた。
カァーッと血が昇り、頭の後ろが熱くなってゆくのを感じた。
「何でだよッ!? なんで、あんたなんかにッ!? 関係ないだろッ!?」
「お前が手に入れたものは、この世にあっていいものではない」
噛みつくような剣幕のダインにヴァロフェスは静かに言葉を続ける。
「どんな形をしているのであれ、それは恐るべき呪物だ。持ち主には、災いしかもたらさぬ。お前の、いや、お前の姉上のためだ。私に引き渡すがいい」
スッと差し出されたヴァロフェスの片手。
その手をしばらく見つめた後――、ハハッ、とダインは乾いた笑い声をたてる。
「何がおかしい?」
「分かったよ。あんた、さっきの化け物――、いや、化け物のふりをしていた男とグルだろ!?」
「……どういう意味だ?」
「とぼけんなよッ!!」
ギラギラと目を輝かせながら、ダインはヴァロフェスに指を突きつける。
「俺を騙して、恩を売って、手なずけて!! 俺と姉ちゃんから幸せを奪い取って行く腹だったんだろ!? だけど、お生憎様だな!! あれは俺しか分からない場所に隠してるんだ!! 絶対に見つかりっこない!! ざまーみろ……」
「愚かな子どもよ、聞け」
ダインの言葉を遮り、短くヴァロフェスが言った。相変わらずその口調は静かだったが、今までにはない、ドンと胃に堪えるような重々しい響きがあった。
「呪物は持ち主に災いを運ぶ。その災いがお前だけではなく、お前の大切な者にも破滅をもたらすことがなぜ理解できない?」
言葉につまり、ダインはグッと唇を噛みしめる。
こんなヤツの言うことを信じちゃダメだ。
どうせ、口から出まかせを言っているに決まっている……!!
「そうなれば、お前は生涯、己を呪いながら生きることになる。それが望みか?」
「う、うるさいっ!!」
ほとんど悲鳴のような声で叫んで、ダインは後退りしていた。
「俺みたいなガキを苛めるのがそんなに楽しいのかよッ!! 死んじまえッ!!」
「待て」
ヴァロフェスの制止する声も聞かず、ダインは走り始めていた。
姉が待つ、我が家へと向かって。
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#貴種漂流譚