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紫倉 紫
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#再会
イツカ
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#異能力
アルカナが起きた時に水を飲みたいだろうからと、眠る彼女を部屋に残して廊下に出た。目指すは調理室だが、今まで住んでいた掘っ建て小屋みたいな家とは違って、南風家の屋敷はタウンハウスであってもかなり広いから、移動するだけでも時間がかかりそうだ。
(今夜は事前にペットボトルでも用意しておくか)
あの後。
無茶をさせたせいでキャパ越えでもしたのか、こちらに遠慮など一切せず眠り込んだアルカナは何をしようが全く起きず、柔らかくて温かな太腿を散々使っても目を覚まさなかった。それをいい事に、あの可愛いお口に“ナニか”を押し込んでしまいたい衝動に駆られたがグッと耐え、濡れそぼったままだった秘裂のナカへ押し挿れたいという欲求からも逃げに逃げ、オレはどうにか『待て』を突き通した。
(……五回程は出したけど、まだ腹ん中が重い感じがするなぁ)
水を確保したらまた体を使わせてもらうか。
——なんて事を考えながら廊下を歩いていると、広大な庭へと続く引き戸の近くでアルサの姿を見付けた。まだ起きていたのか、早起きをしたのか。どちらとも取れる何とも微妙な時間に、こんな場所にいる理由がわからない。無視して素通りするのも何だし、「どうしたんだ?こんな時間に」と声を掛けてみた。
「獣種のせいか、行動するのは夜の方が性に合っているんだよねぇ」
窓越しに見える暁の空を見上げたまま、和装姿のアルサが言う。この様子だと、オレが居ると早々に気が付いていたみたいだ。
「あぁ、そうか。成る程な」
「叶糸君は、どうしてこんな時間に?明日は君だって色々準備があって早いよね?」
「アルカナの為に水を取りに行く所だったんだ」
あれだけ声をあげていたんだ。起きた時の喉のコンディションは最悪だろうからな。回復の魔術もかけてやるつもりではいるが、水分も大量に失っているだろうから、水くらいは用意しないと。
「あ、そっか。それは失念していたなぁ。近日中に、二人の部屋の近くに簡易的な調理室でも用意しておくよ。冷蔵庫とかウォーターサーバーなんかもあると便利だよね」
「何もそこまで……」
ただ飲み水が欲しかっただけなのに随分と規模の大きな話になってしまった。だけど、遠慮して断ったところでやめてくれるタイプだとは思えない。好きにさせておこう。
(そういや、よくよく考えると、二人きりで話す機会なんかそうそう無いよな。前々から少し気になっていた事があったから、この際だし、訊いておくか)
「なぁ、今から少し話せるか?」
「水はいいのかい?」
「話終わったら取りに行く」
「なら、君達が起きる頃を見計らって届けさせるよ。それとも、行ったついでに叶糸君も飲むつもりでいたりしたかな?」
「いいや、大丈夫だ」
「そっか。じゃあ、庭を散歩でもしながら話そうか」と誘われ、まだ薄暗い和風庭園に出る事にした。
しんと静まり返った庭に下駄の音だけが澄んで響く。昼間なら広い庭先にまで届く街の喧騒も、この刻はまだ遠いみたいだ。
「で、話って何だい?」
「……あー。その、なんだ。アルカナは少しの遠慮もなくアルサ達に甘えまくっているけど、実際問題、お前らの求める見返りは何なんだ?」
「見返り?」と言い、アルサがきょとん顔になった。
「あ、そっかぁ。叶糸君は『搾取される側』だったから、『見返りは求めていない』って言われても信じられないんだね?」
「…………っ」
全くもってその通りなんだが、声が喉奥で詰まった。自分にとってずっと『普通』だった事が、傍から見れば『異常』だったんだと改めて痛感する。
「んー……でも、それが事実だからなぁ。私達的にはこの現状が、そもそも奇跡みたいなものだし。一生涯相見える事は有り得ないと思っていた『管理者』様に会えただけじゃなく、頼って頂き、しかも今は『家族』という立場をも与えて貰えている。もうただそれだけで、好き放題尽くせて、同じ空間に存在して、吐き出した空気を吸えているこの状態そのものが、もうっ——」と、段々と早口になりながら言われて少し引いた。熱意は伝わってはくるが、普段の温厚で、のんびりとした雰囲気との差がえぐいな。
「アルカナ様は、事前に私達『南風侯爵家』がどういった一族かを熟知していたから、素直に、何も気にせず存分に頼れるんだろうけど、叶糸君は違うもんね」
「まぁ、そうだな」
南風侯爵家は、現当主である彼が国の宰相を勤めている事以外、情報が不透明だ。噂程度に『情報通である』とか『暗部を担っているらしいぞ』と聞く事もあるが、真相を確かめる術なんか今までなかったからな。
「でも、そうだなぁ……どうしても何か『見返り』を求めて欲しいのなら——」とまでアルサが言って、一旦言葉を区切り、ニコッと『兄』らしい顔をこちらに向けた。
「叶糸君が『管理者』を引き継いだ暁には、私達の事を思い出して欲しい、かな」
「……思い出す?」
「多分、その頃には私達はもう死んでいると思うし、その時は『魂』的なモノを召喚して貰って、『お手伝いさん』的に使って欲しいなぁ、ってね」
「そんな事が可能なのか?」
「さぁ?どうだろうねぇ。アルカナ様はそこまでは教えてはくれないし、流石にわからないなぁ。でも、こんなに広大で壮大な『ハコブネ』という『惑星』をたった一人で管理し続けているとは到底思えないんだよね。時々『報告書』を読んでいたり、『各種データ』を受信して惑星管理の参考にもしているらしい事を鑑みるに、それらを作成している『補助者』的な存在が居るんじゃないかなって思うんだ。という事は、叶糸君が引き継いだ後にもそういった存在が必要不可欠で、もしそれらを自分で指名出来るのなら、『見返り』として私達を指名して貰えたら嬉しいなぁ」
「成る程な。可能なら、覚えておく」
「あ、でも、サリアとセットで召喚出来ないのなら、諦めるよ」
「何でだ?」
「そりゃ、伴侶と一緒に居られないのは寂しいからだよ。彼女と一緒に居られないんなら、永劫並みの刻なんか耐えられる気がしないなぁ。不老不死に憧れて言ってる訳じゃないからね」
気持ちはわかる。逆の立場なら、オレも同じ様に願うだろうから。
「……ん?そういや、この件はサリアも了承済みの話なのか?」
「いいや、知らないよー。家訓的なものの影響もあってか、お互いに、不確かな情報は与えない主義なんだ」
「待て。じゃぁ、もしアルサの『頼み』が実現したら、急に召喚されて困惑するんじゃないのか?」
「そこはまぁ、サプライズって事で」
てへぺろとでも言い出しそうな顔でアルサが言う。三十代目前の男がやってんのに似合うのが怖い。
「内緒と言えば、アルカナ様には、まだ他にも隠し事があると思うんだよねぇ。何かはさっぱりだし、別に何であろうが構わないけど、叶糸君は行動や選択に慎重になった方がいいと思うよ」
「またそういう気になる事をぽろっと言う……」と呆れながら返す。
でも、ちょっと考えて、『実は他の誰かを想っている』とか、その類の秘密でさえなければ、オレもその点には触れないようにしておこうと思った。ずっと傍に居られるなら、触れ続けられるならもう、それで——
コメント
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ああ、良かった……。叶糸くんがようやく「見返りを求められない」関係に戸惑いながらも、アルサの言葉に少しずつ心を開いていく感じがとても丁寧で好きです。「思い出してほしい」って願い、切実でありながらもどこか優しくて、こういう家族の形もあるんだなあってじんわりしました。サプライズ召喚計画、実現したら面白いですね笑