人魚は回した手を引き寄せ抱き寄せる。サツキはさらにドキドキする。
「亡霊ってのは、例えやで。あれは死ぬことが出来ひんで、自分では泳ぐんも出来ひん。せやから沈みながら波に漂うとるだけでな。ほんで臭いんや。死んでへんのに死臭がしとる。海に住んでるうちら人魚にとってはどうにも出来ひん臭いだけのもん。天敵や」
人魚は胸を押しつけさらに密着する。サツキはもう手で顔を隠してはいるが、指の隙間からバッチリだ。
「そうか。やはりお前に会いに来て正解だった」
「せやけど、いつやったかにその死海魚に喧嘩売った若いのんがおってな。まあ、臭いにおいが撒き散らされただけで勝ちも負けもあらへんねんけど、いくらか肉が引きちぎれて岸の方に流されたらしいで。ここやなくてもっと北の方やけど」
ダリルは目を細めて少し考える素振りをする。
「口にすると、どうなるだろうな」
「あんな臭いん考えとうないわぁ。でもせやな、もしかしたら死ねなくなって、自分では何も出来なくなるとかあるかもしれんな」
人魚はもう首に口づけしながら話している。
サツキはハァハァ言っている。
「まあそんな気持ち悪いやつの話はやめにして、仲良しやろうや」
人魚のその唇は鎖骨を這うようにして艶かしく動く。
サツキは目がはなせない!
「ああ、俺とお前で楽しくなろう」
サツキはいよいよ卒倒しそうだ。
ダリルは人魚のおなかに糸をぐるぐると巻き、優しく人魚を砂の山におろして頭を軽く撫でる。
困惑するうさ耳。
砂山の上で、人魚はその優しい扱いに蕩けそうな顔ではあるが、うん? と可愛く疑問の声をだす。
きつね耳は「やっと見られるよっ!」とうさ耳を誘い離れて眺める。
サツキはノーマルな方ではないの⁉︎ と困惑するも興奮が止まらない。鼻血まで出てきた。
「クローディア……俺からの最上級の愛情表現だ。受け取ってくれるな?」
「うん。ダリルの好きにしてや」
もう蕩けきった人魚のセリフにはハートがついている。状況など正確に掴めてはいない。
ダリルは再び釣り竿を大きく振りかぶり、全力のキャスティング!
その場でギュルルルル!と横回転を伴い砂山を削り怒涛の砂煙をあげ、どういう理屈なのか勢いよく沖の方へ飛んでいった。
よっしゃあっとガッツポーズのきつね耳。
あまりの出来事にガクガクするうさ耳。
ケモ耳たちの反応を微笑ましく見る青年。
ダリルとクローディアの関係など知るはずもなく「そんなプレイ……上級すぎますわっ」と卒倒した黒髪少女。
「スキル、秘技・暴れ独楽。素晴らしい回転数だな」
その軌道はほのかに黄色い帯を描き、遠くで「いやぁぁぁっ」という声が小さく聞こえた気がする。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!