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第11話:声をあげる者
救助劇の直後、広場は重苦しい沈黙に包まれていた。
カイ=ヴェルノは、助けた女性をそっと地面に降ろすと、灰色の瞳を伏せて一礼した。
華奢な肩は息づかいに震えていたが、その姿勢は揺るぎなく真っ直ぐだった。
「……やはり怪しい。ヴィランの血を引く奴が人を助けるわけがない」
ヒカル=セリオンの声が響く。
水色の髪を夕日に光らせ、鍛えられた体を群衆に向ける。マントが風を受け、誇示するように広がった。
彼の笑みはいつも通り自信に満ちていたが、瞳の奥には焦りの色が見えた。
その時だった。
人混みの後方から、低く落ち着いた声が響いた。
「……違う。俺は見た。助けたのはヴェルノだ」
群衆が振り返る。そこに立っていたのは、灰混じりの髪を持つ中年の男。
日に焼けた肌に刻まれた皺、がっしりとした体格。
地味な作業着風のコートを羽織り、腕を組んだ姿は威厳よりも実直さを漂わせていた。
グレン=タチバナ。
市場の労働者として知られる市井の男だった。
「俺だけじゃない。周りの奴らも見てたはずだ。最初に飛び込んだのはヴェルノだった」
ざわめきが走る。
「……確かに、そうだった」「俺も見た」
小さな声が重なり合い、セリオンの周囲に冷たい空気が流れ込んでいく。
セリオンは顔を引きつらせ、水色の瞳を鋭く細めた。
「庶民の目に、何が分かる。俺はヒーローの血を引いているんだぞ!」
だが、その言葉に人々はもう無条件で頷かなかった。
視線はヴェルノの灰色の瞳に集まる。
そこには誇りも見栄もなく、ただ「人を助ける」という揺るぎない意志だけが宿っていた。
群衆の心は揺らぎ始め、沈黙がざわめきに変わっていく。
そして、そのざわめきの中心に立つのは、もはやセリオンではなくヴェルノだった。