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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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火鉢の炭が絶えかけているのか、それとも、しんしんと降りつもる雪のせいなのか、底冷えが厳しい。床下の炭火の効きもすこぶる悪い。


物音がした。


「ああ、すまない。起こしてしまったか」


間仕切る屏風から、チホが顔をのぞかす。


「お戻りでしたか」


ミヒは、床から起きあがろうとするが、とたんに、大きくむせこんでしまった。


そのまま、乾いた咳が続き、なかなか止まらない。


ゼイゼイと苦しげに息をするミヒを見て、チホは、枕元にある高杯の水を差し出した。


ここのところ、ミヒは臥せっていた。


「無理しなくていい」


「申し訳ありません」


受けた水をゆっくり飲み、ミヒは息をついた。


「ちゃんと、薬湯《くすり》を飲みなさい。咳がでるようだから、カリン茶を用意させようか?」


言って、体を震わしチホは火鉢に手を添えた。


横顔は、いつになく厳しい。


「戦《いくさ》が起こるようだよ。かなり大きな」


「戦?」


「ジオンが動き始めた。雪溶けを待っているのようだ」


「ジオンが?」


「ああ」


どうりで。


ここのところ、屋敷が騒がしかった。


大きな商いが控えているとは聞いていたが、そうだったのか。


確かに戦となれば、武器が確実にはける。またとない機会に違いない。


「側に、横になっていいか?」


「ええ……」


チホは纏《まと》う長衣を脱いだ。


「夢を見るのか?」


「いいえ、さほどは」


「でも、見るんだね?」


「はい……」


ミヒは、うつむき小さく答えると、隅にあるつづらから、チホの部屋着をだした。


疲れがたまっているのか、チホは唸るようなため息をつき、世話をやくミヒの様子を気にとめることなく、衣を脱いでいく。


チホの肌には、無数の傷がある。


幾度となく目にするものも、今日のように、日の高いうちから見るのはまれだった。


「かれこれ、人には言えないことをやってきたから」


ミヒの視線に気づいたらしく、チホは軽く笑った。


「痛むの……ですか?」


肩から背の中央にかけて、一際赤くはれ上がる傷があった。


ミヒは指で、傷跡を伝った。


何か心にひっかかった。


「傷は……癒えている。どうした?」


「いえ……気になって」


いつになく執拗に食い下がるミヒにチホは、観念したのか、語り始めた。


「この傷は、最初に受けたものなんだよ」


「仕事の時に?」


「……今の仕事とは違う。私は別な人間だった。若かった。今のミヒぐらいだったか」


ミヒの手が、傷を伝って、チホの首もとへ這った。


「私一人……こうして……」


チホは、ミヒの柔らかな手を取る。


そのまま口をつぐむと、いつになく遠い目をした。


「おや?」


「……塩を……」


外から、かすかに声が聞こえてくる。


「塩をおくれ……」


小さく震えるような声……。


チホは上着を羽織り、明かり障子を開けて外を伺う。


蓑《みの》に包まった男の子が一人。寒さに震えながら、枡《ます》を突き出していた。

朱(あけ)の花びら

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