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放課後の薄闇。
椅子を引く音が、やけに大きく響いた。
今日の相談者は女子生徒だった。
制服の袖をぎゅっと握りしめながら、視線を落としたまま席に座る。
「……私、いつも余ってるんです」
遥は彼女の顔を覗き込もうとはしない。
ただ、逃げ道を塞がない位置にそっと居る。
「友達グループの輪にも入れなくて。
家に帰っても、話す相手いないし
自分の部屋にいても、なんか落ち着かない」
彼女の声は震えていない。
震えるほどの力すら、もう残っていないのだろう。
「居場所って、どこにあるんですか。
私だけ、どこにもない気がして……」
遥は、答えを急がない。
窓の外の陽が消えかける。
「……俺も、多分そうだよ」
彼女の目が、かすかに動く。
「教室にいたって
家に帰ったって
安心できる場所なんてない」
遥は自分の指先を見つめながら続けた。
「でもさ、“誰かといたい”って思うなら
それ、居場所が欲しいって証拠じゃん」
「……じゃあ、どこに?」
「まだ、どこにも無いんだよ」
あまりに正直すぎるその言葉。
だけど、嘘がひとつも混じっていないことが、なぜだか救いになる。
「これから探せばいい。
見つかるまで、ここに来ればいい」
「ここ……?」
「うん。
相談室ごっこみたいなもんだけどさ。
居場所、ないよりはマシだろ」
彼女は少し迷って、
そしてほんの少しだけ、唇の端を上げた。
「……はい」
その笑みに、遥は気づかないふりをする。
気づいたことを知られたら、きっと彼女はまた不安になるから。
夜が完全に落ちる直前、
教室に灯る、たった一つの灯り。
孤独を抱えた二人が
ほんの数分だけ、同じ場所にいられた証。