第三十七話「無音の絶叫、沈黙のアリア」
🔪登場:ヴィス
暗幕に包まれた廃劇場。
月明かりだけがスポットライトのように差し込む舞台の上に、
細身の青年が静かに立っていた。
名はヴィス・エスプレンド。
20代後半。
真紅の燕尾服を着た貴族のような佇まい。
金色の髪は巻き上げられ、
口元には黒いマスク。
目元は端正だが、どこか“音のない世界”に染みついた空虚さを漂わせる。
彼は“音を奪う”殺人者。
彼の周囲ではどんな音も発生しなくなる。
叫びも、銃声も、鼓動すらも消える。
🔪スケアリーの実況「音無きアリアの強制静音ディナー」
「ッはあああああああああッ!!!
でたああああああッ!!!!!」
スケアリーが客席のシートを引きちぎって跳ねまわる!
「この男!! 音を!! 殺す!!!!
**“素材が鳴き声をあげる前に”静かに仕留める料理人!!!!」」
「いやもうね!!!
これ、“音のない料理番組”みたいな怖さ!!!!」
「ジュウって音がしないのに、
肉だけが焼けてるの!!!!
聴覚を断絶したまま!! 嗅覚と味覚だけで殺すの!!!!」
🔪無音の殺人
劇場の地下。
ヴィスが階段を降りてくる。
金属のヒールの音はしない。
そこに縛られた男――
叫んでいるが、何も聞こえない。
鼓動すら、沈黙に呑まれていた。
ヴィスはポケットから小さな音叉のような刃物を取り出す。
「この世界にある“すべての不協和音”を、僕は嫌うんだ。」
刃が振るわれると――
悲鳴の代わりに、血が宙に音符のように舞った。
🔪ユリウスの観察
舞台袖から、ユリウスは双眼鏡を覗いていた。
「……これは殺人じゃない。調律だ。
人の身体を“静音加工”して、
舞台の一部に変えていってる。」
「この男にとって“音を奪う”のは、
世界を美しく保つ“美学”なんだ。」
🔪スケアリーの食レポ「静音仕立ての血肉コンソメ」
「くぅぅぅぅぅううううう!!!!」
スケアリーが空気の味を舌で転がしながら呻く。
「音がねぇのに、味がしてんの!!!!
これ、“静寂”を煮詰めて作ったスープだよ!!!!」
「口に入れた瞬間、咀嚼音も呼吸音も消えるのに、
**“苦味だけが濃厚に主張してくる”って何よ!!!!」」
「これはねぇ……音じゃないのよ……
**“命の鼓動を止めた後の余韻”だけで味を出してるの!!!!」
「こんなの……
**“音の死骸をコンソメにした”ってレベル!!!!」
🔪ラスト:誰にも届かない歌声
ヴィスは劇場の中央に立ち、
誰にも聞こえない声で――
歌い始めた。
だがその声には――
なぜか観客席にいたユリウスの**涙腺を揺らす“感触”**があった。
音はない。
だが、確かに“何か”が響いていた。
次回 → 第三十八話「耳のない観客とひとつぶの音」